日光野鳥研究会

第49回 「バードリスニング講座」 報告

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日時: 2004年12月19日10:00〜13:00
場所: 日光田母沢御用邸記念公園研修ホール
講師: 蒲谷鶴彦氏
参加者: 会員33名、会員外16名:計50人

※以下のページに当日の様子を録音した音声データをお聞きいただけます。

「バードリスニング講座」 音声を聞くためにはウインドウズメディアプレヤーが必要です。)


参考:12/19の日光市内の気温と湿度のグラフ

(グラフは日光市内のもので観察地の気温・湿度とは大きく違います)


−写真をクリックすると別ウィンドーに写真が拡大されます−


12月19日(日)

 今回の講座の会場は、当会では初めての日光田母沢御用邸記念公園研修ホールです。
 駐車場に車を停めて、国道をよぎりこの御用邸の門をくぐると急に自分の煩雑な日常が遮断されるような静寂さがあって、日光でも好きな場所の一つです。改装された御用邸本館。そして会場の研修ホールも新しくて気持ちよくとても落ち着いた雰囲気です。
 10時きっかりIさんから開会のご挨拶。次いで松田さんから蒲谷先生のご紹介があり、講座の第一部『野鳥の声の愉しみ方』の始まりです。蒲谷先生の第一声を伺った瞬間、「あっ!ラジオと同じお声」と思いました。同じ方なのですから同じお声なのはあたりまえなのですが、遠い遠い存在だった先生がナマでそこにいらっしゃることに不思議な感動をおぼえました。

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 先生は50年くらい前から奥日光での録音をなさっている由で、「今日は日光在住の方が多いと思ったのでこの地域の音源を持ってきました。」とおっしゃり、その音源でお話をすすめていかれました。(1)15sec鳥の声だけ聞く→(2)その鳥の説明→(3)もう一度同じ鳥の声を聞く、という方法です。

 場所は戦場ヶ原の入口にある赤沼からスタートし、戦場ヶ原の中を流れる湯川沿いに湯元に向かいます。時期は11月〜3月頃。
 以下、先生のご説明の部分をメモとアヤシイ記憶をたよりに書いてみます。ここで音源なしというのは、とても虚しい気がするのですが・・・・。

1.ツグミ(湯川)
 このあたりはズミが多く、その赤い実を食べにやってくる。ズミの木の皮を染料として使うので「染める」が「ズミ」になった。
2.マガモ(湯川)
 冬鳥なのに泉門池では、一年中住んでいる。青頸とも言われ、飼い慣らしてアヒルを作った。アヒルの原種である。
3.カワガラス(湯川)
 この鳥が湯川を上流へ下流へと飛ぶ、その範囲がテリトリーで繁殖地である。他の鳥たちよりカップリングの時期が早く、11月頃から囀り、雪があっても2月には巣を作り3月にはヒナがかえる。すべてにおいて早い。今年は暖冬なので今頃囀りが聞こえるでしょうとのこと。
4.キレンジャク(湯川上流)
 ズミの木に群がっていた。レンジャク(連雀)は木に群がることが多いのでこの名がついた。ここでは4月頃まで見られる。40〜50年前には新宿でも群れが見られた。
5.アトリ
 シベリアで繁殖。冬鳥としてやってきて5月頃帰る。木の実が大好きで、ズミ、ノイバラの実などをよく食べる。集まる鳥→アトリと呼ばれる。先生は伊那谷で5万羽くらいの群を見られたことがある由。

次は湯元から金精道路を越して、蓼の湖→小峠→切込刈込湖のルートです。季節は5月〜6月。
6.モリアオガエル(湯元・泉源近く)
 新種のトリ!!?? これは番外編!
7.キジバト(湯元・泉源近く)
 モリアオガエルのいた近くで鳴いていた。キジバトはデテッポッポ、デテポッポと鳴くが、鳴き終わりはなぜかデデッポで終わる。もしデテッポッポで終わるキジバトがいたら知らせてほしいとのこと。是非見つけたいですね!! また先生は繁殖期のキジバトの「プー」というオナラのような貴重な声もお持ちだとか。
8.ヒガラ(小峠のあたり)
 高い声の持ち主。6000Hzくらいで鳴く。シジュウカラは3000Hz、コガラは2000Hz、ヤマガラも2000Hz。先生のご経験で、ヒガラとシジュウカラの中間の鳴き声が聞こえた。その声の主は姿を見るとシジュウカラだった由。どちらかなと迷うときは声だけで判断しないで必ず姿を見て識別することというアドバイスをいただいた。
9.アカゲラのヒナ(金精峠)
 ヒナの声は親鳥の警戒音と似ている。「あと一週間くらいで巣立ちすると思われる声です。」とさりげなく説明されるのには本当にビックリ。
10.メボソムシクイ
 目は細くないのにメボソといわれる。ゼニトリ、ゼニトリと聞きなす。山小屋ではこの鳥が鳴く頃、お客が増えてお金がとれるからだとか。
11.サメビタキ(小峠から刈込への途中)
 この鳥は、この音源以外にないという貴重な録音。木の高いところで鳴いていた。
12.ジュウイチ(刈込湖)
 日光地方に多い鳥。鳴き声からジュウイチとつけたのだろうが、昔の人は慈悲心鳥と言っていた。
13.ホトトギス
 ホトト・ギスと鳴く声からきた名か。”名告り鳴くホトトギス”と万葉集にもあるとの先生のお話に詠み人は誰かなと帰宅後調べてみましたら、やはり大伴家持でした。ホトトギスは万葉集中、最も多くうたわれている鳥です。万葉後期、とくに家持歌に多く、彼はホトトギス大好き人間だったようです。ただ彼によって詠まれるホトトギスは、私のそれに対するイメージとは全く違っています。といいますのは初夏、日光のわが家の下の沢の茂みで鳴くホトトギスは、ほんとうにビックリするくらい詩的でないのです。家持と私の感性の違いかハタマタ1200年あまりの間にホトトギスの鳴き声が変わってしまったのか・・・・・・・。
 ご興味のある方は、どうぞ巻17、18,19あたりにたくさん出てくる万葉時代のホトトギスをご研究(?)下さい。
【参考URL→http://www6.airnet.ne.jp/manyo/main/animal/hototo.html
 先生のおっしゃった”名告り鳴く”と出てくるのは巻18-4084と4089の長歌に続く4091の短歌のみと思われます。すっかり脱線してすみません。
 このあと先生は♪卯の花の匂う垣根に・・・♪の歌をあげられ、垣根はおかしいし忍び音でもない・・・・とおっしゃいました。やっぱり・・・・と意を強くしましたが。
 それとホトトギスの音源を聞くとき、バックで鳴いているウグイスの声がホーホケキョからケキョケキョという警戒音に変わることにも気をつけてほしいとも。恐らく托卵に警戒したウグイスがそう鳴くのだろう。
14.エゾムシクイ(小峠〜切込刈込湖あたり)
 5000〜6000Hzで鳴く。本州では海抜1000mくらいから聞くことができる。
15.アカハラ
 一年中日本に住んでいる。キョロン、キョロンと鳴く
16.オオルリ
 透きとおるような美しい鳴き声。木の一番高いとこで縄張り宣言して鳴く。
17.マミジロ
 「マミ」は眉のことで、眉が白い鳥という意味。単独で行動する鳥
18.コマドリ
 鳴くときに首を左右にふるのが馬に似ているからとも言われるが、鳴き声が馬の嘶きに似ているという方がよい。声の良さから、オオルリ、ウグイスとともに飼い鳥の三名鳥と愛玩された。先生のお好きな鳴き声の鳥は、クロツグミ、アカショウビン、サンコウチョウ、シロハラ etc.とのこと。

 以上で、赤沼〜切込刈込湖(現地解散!)までの”スペシャル観察会”の終了です。お天気のいい一日、早起きをしてまるで先生とご一緒させていただいているような感じでとても楽しめました。こんな超豪華版の”鳥合わせ”のできる観察会があったらいいですね。

 第一部終了後、10分間の休憩。
 この時間を利用して、テリンガの集音マイクやスワロフスキーの双眼鏡・フィールドスコープなどの機材が展示され見学することができました。録音に興味のある方々は熱心にご覧になっていました。でもド・ビギナーの私にとってはまさに”豚に真珠”の感ありでした。

 次は第二部。蒲谷先生と松田さんの対談で『私が鳥の声に魅かれるわけ』です。松田さんが質問され、先生が答えられるという形で終始しました。松田さんのご苦心(!)の質問にその範囲内のお答えをきちんとなさる先生に、誠実なお人柄を垣間見た想いでした。内容は次のようです。

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■鳥好きになったのは、家族のだれかの影響を受けたわけではなく、中学生の時(S14年)にはもう野鳥の会に入られた。

■録音を始めたのは鳥の姿を見るより声が好きだったから。コーネル大学が鳥の生態映画撮影などのために鳥の声を録音する様子を見て、いつか自分でもやりたいと思われた由。日本では機材が全くなく、その道に詳しい弟さんが録音機を作られた。最初は20kgもあるものだった。(S36年頃)

■文化放送の「朝の小鳥」は、たくさんのお手持ちの音源と偶然の人との出会い(文化放送の方)から始まった。
昭和28年5月から放送が始まり今年で51年目。毎日5分の放送のために一週間のうち2〜3日は取材、1日は放送局での収録と、30年くらいこの生活が続いた。14,000回以上の放送を一度も休んでいない。20歳まで生きないだろうというくらい病弱であったのに、このように元気で長く続けられたのは”鳥のおかげ”と言われる。

■録音をしていて一番良かったことは、日本中はもとより世界をまわられたこと。先生は外国の鳥よりも日本の鳥がお好きとのこと。

■どうしてクリアーな録音ができるのですかという問いには、鳥に近づくか鳥に近づいてもらうか・・・・と(ユーモラスなお答え)。そう言われながらも鳥の行動を調べて棲息範囲、ポストはどこかを知り、そして待つ。鳥が近づいてきたらスイッチを入れて・・・・・と、先生の”録音哲学”をお聞きした思いでした。そして、鳴き声と次の鳴き声の”間”が大切なので、うっかり話し声が入ったりしないように録音にはしゃべらない人がいい。またバックノイズは鳥の棲息環境を表す音で大切なものと強調された。たくさんの素晴らしいCDなどの音源のすべてがこのようなご苦労の積み重ねだと思うとこれからの私の聞き方も全く変わってきそうです。

■また音源の神様のような先生から何の鳥かな・・・とはっきりしない時は、音(鳴き声)だけで判断せず、必ず実物を見て判断するといいと次のような例をあげられた。アオゲラとアカゲラのドラミングの区別ができるかと言われても木が腐っていれば音が違ってくるし、ときにはメスもドラミングをしてオスを呼ぶこともある。
これからは”視線”に”耳線”(耳栓ではありませんよ!)を加えた鳥の見方をしてほしい。鳥は姿を見るだけでなく鳴き声に十分気をつければ楽しみが増えるとお話を締めくくられた。

 第一部、第二部を興味深く伺っているうちに、あっという間に終了してしまいました。ご用意していただいたお弁当でお昼です。雑談の中で先生から楽しいお話が伺えるかと期待していましたが、この時間は純粋に(!)昼食の時間となりました。今回もSさんから、しもつかれ、白菜のお漬け物、キーウィフルーツなどたくさんのお心遣いをいただきました。どれもとてもおいしくてお弁当とともに豪華なお昼ごはんとなりました。ごちそうさまでした。

このあと一部の方は13:30から日光総合会館ホールで行われる”日光環境シンポジウム”に出られるようでした。C.W.ニコル氏による『エコツーリズムと国立公園の環境保全』の基調講演や、その後に行われた『日光観光の蘇生と再生』と題されたパネルディスカッションなどで、きっと有意義な時間を過ごされたことでしょう。

このようなすばらしい企画を本当にありがとうございました。日頃、熱心に会を支えて下さっている皆様の人脈や周到な準備のおかげで、何の努力もせずしてこのような企画に出席させていただけることを本当にありがたく思っています。同道の会員外の友人もとても喜んでおりました。心からお礼申し上げます。

蒲谷鶴彦 氏
 1926年、東京新宿生まれ。小学生の頃より野鳥に興味を持ち、中学生のときに日本野鳥の会に入会する。現在、日本鳥学会名誉会員、財)日本野鳥の会学術顧問。
 戦後間もない1951年より野鳥の声の録音を始め、1955年には日本で初めての鳥のレコード『野鳥の声 全三巻』をビクターレコードから出した。1953年5月からは、文化放送『朝の小鳥』の制作にかかわり、この番組は1959年から1992年までの33年間は毎日、現在は毎週日曜日に放送され、通算1万4千回を超える長寿番組となっている。また、2003年には放送50周年を迎え、記念のCD『朝の小鳥』が制作された。
 この番組のために日本国内はもとより世界77ヶ国にわたり野鳥の声を求めて飛び回り、その種類数は1,000種類を超えている。この膨大なコレクションをもとに、1995年に集大成ともいえるCD付き図鑑『日本野鳥大鑑鳴き声333全2巻』(小学館)を制作した。当書は各界から高い評価を得て、2001年には『日本野鳥大鑑鳴き声420』として増補されている。現在、発行を手がけた鳥の声のレコード、CD、CD-ROM、CDブックなどは、60点を超えている。
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松田道生 氏
 1950年、東京板橋生まれ、財)日本野鳥保護連盟、財)日本野鳥の会職員を経て、現在フリーランス。野鳥に関する著述、講演などを通じて自然保護のためのバードウォッチングの普及に努めている。また、NHKラジオの『夏休み子ども科学電話相談』、TBSラジオの『全国子ども電話相談』の解説者としてなど、番組のコメンテーター、監修を多数手がける。現在、財)日本野鳥の会評議員、立教大学兼任講師、日光野鳥研究会顧問。
 『理科の教育』(日本理科教育学会編集)に寄稿した『スズメが天然記念物になる日』が1990年度の文藝春秋ベストエッセイに入選し『チェロと旅』に収録。企画構成、執筆の『みる野鳥記』シリーズ(あすなろ書房)が第40回産経児童出版文化賞を受賞した。
 おもな著書に『野鳥観察図鑑』(地球丸)、『カラスなぜ襲う』(河出書房新社)、『大江戸花鳥風月名所めぐり』(平凡社)、『野鳥を録る』(東洋館出版社)などがあり、蒲谷鶴彦氏の『日本野鳥大鑑鳴き声333全2巻』と『日本野鳥大鑑鳴き声420』の解説文を担当した。この他、監修図書、編集著書、報告書など70冊以上を手がける。
 なお、野鳥の録音は蒲谷鶴彦氏の教えのもとに10年を超え、自作のCDのオオルリ、クロツグミ、キビタキ、コーラスなどを収めたオリジナルCDなども制作。また野鳥の声と録音についてのWebサイト「Syrinx」(www.birdcafe.net/syrinx-index.htm)を運営している。
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【報告: WY】
【写真: IT、YR】


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