−高原の風に乗って−

ノビタキ


  けして草原の「伸びた木」に止まっているからノビタキではありません。野のヒタキの仲間という意味です。その名のとおり、野原が大好きな鳥で本州の高原や北海道の牧場などで見ることができます。開けた環境が好きなので、いれば姿を見ることは難しくありません。見えれば雄は黒い頭と白い腹のコントラストがきれいで、胸のオレンジ色が鮮やか。また、翼に白い大きな斑点があるのもよく目だちます。いずれにしても特徴がはっきりしているので、図鑑と照らし合わせればすぐに名前のわかるうれしい鳥です。
 ただし、雌は茶色で目立ちません。雄同様に翼に白い斑点があるのを確認してください。

 日光でも草原が広がる環境にいます。いちばん手頃に見ることができるのは、戦場ヶ原です。赤沼から歩き始めて青木橋の手前で草原を一望できるあたりに行き双眼鏡で探せば、草の上やシラカバの枝の上にとまっている姿を見つけることができるでしょう。ヤチボウズが点在する湿地あたりでは、木道を横切って行き来し6月下旬になるとヒナを連れた姿にであうことも珍しくありません。
 同様に小田代原もノビタキのいるところです。シラカバの貴婦人をバックに、ノアザミの花の上に止まっている可憐な姿が見られるかもしれません。
 夏鳥ですから5月上旬に渡ってきて、おおむね9月いっぱいは日光在住の鳥です。
 このように日光のノビタキは、日光の西側に位置する戦場ヶ原周辺特有の鳥という印象がありました。考えてみれば、東側の霧降高原から大笹牧場方面も草原という環境があります。私は、何度もこの一帯を歩いていますが、ノビタキを見つけることありませんでした。そのため、ノビタキは日光では戦場ヶ原限定の鳥だと思っておりました。

 ところが去年(2004年)、大笹牧場でまず見つけ、さらに霧降高原でもノビタキの姿を確認することができました。
 六方沢橋の手前にある霧降橋周辺で、夜明け前の野鳥録音を終えてその後、大笹牧場に行った時です。同行したTさんが、ノビタキの雄をみつけました。有料道路の周辺の灌木のてっぺんと牧柵の間を行き来していました。そのあとも、もう1羽の雄を見つけましたので、2番のノビタキが生息している可能性があることなります。
 ほぼ同じ場所で、今年(2005年)も見つけましたので、大笹牧場に居着いたことは間違いありません。
 また『日光野鳥紀行』の「焼石金剛」に書いたように小丸山から赤薙山に向かう登山道でも見つけました。
  戦場ヶ原は木道しか歩けませんが、比較的コースが縦横にある霧降高原の登山道では、逆光をさけて写真を撮るとか、近づいてマイクを仕掛けてさえずりを録音するなど、よりノビタキの魅力を堪能することができます。

 この鳥のさえずりは、高原の空気のように澄んだ伸び伸びとした声で「ヒーヒョーヒュロリー」などと聞こえます。同じ節を繰り返すことが多いのですが、ときおり気が向いたように複雑な節を唐突に入れることがあります。この声が高原を渡る風に乗って聞こえてくると、とてもさわやかな気分になれます。
 霧降高原で録音をしていて感じたのは、この鳥は声量がなく、たいへん声が小さく録音が難しいということでした。ですから、近づくことのできない戦場ヶ原ではまず無理。霧降高原でも風のなかのさえずりを録音して風の音をカットし、かろうじて聞くにたえる音源にすることができました。

 先日、北海道に行く機会がありました。釧路と根室の中間に位置する霧多布湿原の端にあるポロト沼に数日滞在しました。周辺は草原が広がっていますので、もちろんノビタキもいました。宿の前を、たえず数羽が飛び交っているほど多い鳥でした。
 この北海道のノビタキの声を聞いて、これが同じノビタキなのかと思うほど、鳴き声が違っていたのです。北海道のノビタキのさえずりは、音質は本州のノビタキと同じなのですが、節回しは複雑で音量も大きく力強さを感じるほどです。しっかりと戦場ヶ原で聞き慣れていればノビタキの声とわかる程度の違いですが、録音をしているとその声の大きさに「おやっ」と思ってしまうほどの違いです。
 この違いは、ノビタキの生息密度によるものです。密度が高く競争が激しいほど、さえずりも大きく複雑になっていくことになります。これは”雌の好み”に他ならず、より声のよい雄を雌が求めてきた結果です。いわば雌が雄の声をきれいにしてきたことになります。
 日光もノビタキが増えて、さえずりが力強いものとなると良いですね。

松田道生(2005年8月25日・起稿)

イラスト:水谷高英氏

ノビタキの声(霧降高原)>

※音声を聞くためにはリアルプレヤーがインストールされている必要があります。


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