−デレスケ、ホーホーと鳴く−

フクロウ


 日光地方のフクロウの鳴き声の”聞きなし”は「デレスケ、ホーホー」だと教えてくれたのは福田会長です。デレスケとは、だらしのない奴という意味が一般的ですが、日光地方では「大バカ者」くらいのどうしようもない最低の奴の意味だそうです。

 ところで私がフクロウの声を聞いたのは、日光通いを始めるまではわずか1回だけでした。それも高知県の足摺岬の近くで、20年以上前のことです。昼間に小鳥に追われて林道を横切る姿などの出会いはあるものの「ボロ来て奉公」という声を聞いたのが1回だけというのは、ちょっと恥ずかしく思っていました。
 そんなフクロウが鳴いていると、教えてくれたのが乗馬倶楽部のTさん。夕方になるといつも小倉山から鳴き声が聞こえ来るというのです。ということで、夕方のビールと夕食を我慢しては、乗馬倶楽部に行きました。ところが、何回行ってもフクロウは鳴いてくれません。私ががっかりしていると「今日の朝に鳴いていたよ」と慰めてくれるのですが、私にとっては悔しい情報です。
 そしてある日の黄昏時、乗馬倶楽部のテラスに座ってフクロウが鳴くのを待っていました。馬屋では夕方の作業で忙しそうです。薄暗くなった頃、Tさんも仕事を終えて住まいのほうに引き上げてきます。そのとき「グルック、ホーホー」という、フクロウ特有の声が聞こえました。最初はTさんがフクロウの真似をしていると思って「また、からかっているなあ、騙されるものか」と思いました。しかし、よく聞くと小倉山の中腹から聞こえてきます。間違いなく本物のフクロウです。
 さっそく馬屋の裏に行って録音機をセット。ヘッドホーンからは「ボロ来て奉公」と、はっきりとフクロウの声が聞こえてきました。聞きようによっては確かに「デレスケ、ホーホー」とも聞こえます。ただし、ときどきウマがバケツにぶつかる音が大きく入るのには困りました。
 意外に思ったのは、この一節ごとの間が大変長いのです。1分間に1回鳴けばよい方で、もう鳴き止んでしまったのかと思う頃に、また鳴くという具合です。CDなどに収録されている音源は、この間を詰めて編集しているのでしょう(このサイトのものも詰めています)。

 この他のフクロウとの出会いは、稲荷川下流域がいちばん多く、高い確率で黄昏時になると声を聞いています。初夏から晩夏にかけて、ヨタカが鳴き止むとフクロウが鳴くというパターンでした。稲荷川下流域に住むIさんの話では、フクロウの声は鳴き続けているわけではないが記録は季節を通じてあるとのことです。
 昼間に声を聞いたこともあります。これは、滝尾神社から稚児の墓に向かう途中の登山道で、殺生岩あたりの林のなかの道を歩いているときです。一声ですが、間違いなくフクロウの声でした。
 姿を見たのは大笹牧場。牧場でヒバリの声を録ろうと思って、朝早く霧降有料道路を走っていったときのことです。牧場の手前のシラカバの林からフクロウが飛び立ち、目の前を横切っていきました。ふわっとした飛び方と思いのほか、白く見えたのが印象的でした。

 他の方の記録では、霧降の高原コースで見たという情報もあります。さらに、フクロウのペリットらしいものを見たのは、稚児の墓の上、山王峠、千手ヶ浜などです。
 これらのフクロウがいた、あるいは声を聞いたという場所に共通する環境は、草地が近くにあることです。乗馬倶楽部の牧草地があります。大笹牧場はゆうに及ばず、霧降の高原コースも笹原の多いところです。山王峠はすぐ下に草原となった涸沼があり、千手ヶ浜も開けています。
 フクロウの主食は、ネズミです。そのため、ネズミの捕獲ができる草地が生活するには都合がよいです。もっこ平などのササ原を歩いていると、足下にはたくさんの穴が開いているに気がつきます。ときには、足下をアカネズミが走り抜けます。地面を敷き詰めたように落ちていたミズナラのドングリもあっという間になくなります。これは、ネズミが自分の巣穴に運び込んでしまうからだと思います。
 ということは農耕地が広がっている戦場ヶ原周辺もいると思うのですが、あまりフクロウを見たという情報ありません。標高が高すぎるからでしょうか。
 どうも、私がフクロウと会えなかったのは、夕方になると頭のなかがビールと夕食のことでいっぱいになり、鳥を見る気にはならなかったためのようです。バードウォッチャーとしては、デレスケですね。おかげで「デレスケ、ホーホー」がなかなか聞けなかったことになります。

松田道生(2004年5月15日・起稿)

イラスト:水谷高英氏

フクロウの声(稲荷川下流域)>

※音声を聞くためにはリアルプレヤーがインストールされている必要があります。


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