−囀りにだまされる−

ゴジュウカラ


 ゴジュウカラには、いつもだまされます。「フイフイフイ」という連続した柔らかい声でのさえずりは、ゴジュウカラだとすぐにわかりますが、それ以外の声だとすぐに鳥の名前が浮かばす悩まされます。
 「フィフィフィ」とう声は以前、滝尾神社に向かうスギの木、てっぺんが枯れているところにとまって良く鳴いていたことがありました。体をあっちこっちに振ってさかんに鳴いている姿が、印象的で声も忘れることはありません。ところが、ゴジュウカラのさえずりには、これ以外にもいろいろな声があったのです。

 以前、日光で最高のさえずりポイントである霧降橋で録音をしていると、遠くでゆっくりとしたテンポで「ピーッ、ピーッ、ピーッ・・・」あるいは「チープ、チープ、チープ」と尻上がりに聞こえる声で鳴き続けていた鳥がいました。もちろん、夜明け前の薄暗い時間である上に距離があるので、姿が見えません。録音後、家でじっくり聞いても鳥の名前が浮かばないです。標高の高さ、環境から消去法でゴジュウカラではないかと当たりをつけて図鑑を調べても、このように鳴くと書かれている図鑑はありませんでした。私が関わった『野鳥大鑑鳴き声420』(小学館・2001年)に収録されている蒲谷先生の音源も「フーイ、フーイ、フーイ・・・」というものと「フイ、フイ、フイ、ピリリリリ」です。手元にあるいろいろな音源を探してみると『野鳥の声』(山と渓谷社・1999年)に収録されている上田秀雄さんの音源が、それに近く「やはりゴジュウカラだ」と、確信することができました。これらの音源を聞き比べてみると、私が悩まされた「ピーッ」の連続鳴きは、よく聞く「フーィ」のバリエーションのようです。
 ある時、湯滝から湯川に沿って歩き、泉門池の手前の橋のそばで、聞き慣れない声がしました。「ツィーッ、ツィーッ」という感じだったと思います。ちょうど、近くに別のバードウォッチャーがいて「野鳥の声は難しいですね」という話になり、私は「今鳴いている鳥がわかならい」といったところ「ゴジュウカラです」と、こともなげに教えてもらったことがあります。確かにゴジュウカラの音色なのですが、今までに私が聞いたことのない鳴き方だったのです。ゴジュウカラのおかげで恥をかきました。

 ゴジュウカラは日光では、かなり各地で見ることができます。生息環境は広葉樹の明るい林ですから、モミジの名所である日光では多い鳥と言うことになります。とくに、冬は日光駅の近くの小倉山から霧降別荘地にかけては、出会いの多い場所です。中禅寺湖畔の森や戦場ヶ原は、夏も冬も見られます。夏は、志津にもいたことがありますが、かなり高いところまで生息していることになります。なお、地鳴きには「ツィーツ、ツィーッ」「ツッツッ」などのほかにいろいろあり、「キョキョキョ」と連続したけたたましい声はスズメとケンカしているときに出していました。

 NHKラジオの午前中の番組『いきいき倶楽部』には、何回か出演したことがあります。このとき、鳥の話題ということで音楽担当の方がいつも鳥にちなんだ音楽を用意してくれます。シナリオには『草原の小鳥』というタイトルだったと思いますが、音楽と鳥の声で構成された曲が流されました。このとき、鳴いていたのが「フイフイフイ」という柔らかいゴジュウカラの声でした。番組が終わった後に「ゴジュウカラなのに草原はおかしいね」とディレクターにいったところ、タイトルを確認したら『高原の小鳥』でした。ゴジュウカラのおかげで少し名誉回復です。
 これには後日談があって、やはり長年野鳥の声を録音している福沢範一郎さんに、こんな話があったと言ったところ、彼の音源であることがわかりました。狭い世界です。

 NHKの大河ドラマでもゴジュウカラの声がなぜか流されます。それも、江戸城のシーンでゴジュウカラが鳴いていることがよくあります。江戸の生き物のリストとも言える『武江産物誌』には「五十から 希なり」と書かれています。希で山地性のゴジュウカラが、そうしょっちゅう江戸城で鳴いているとは思えません。
 そんな話を、NHKの効果担当と方と話したことがあります。その方によると「うるさい声は台詞を損なうからダメ、じゃまにならず鳥が鳴いているという穏やかな演出をしたいときに流せる声は限られる」というのです。たしかに、ウグイスのように時々鳴く鳥では、台詞とかぶったときにじゃまです。その点、ゴジュウカラの「フィフィフィ・・・」という連続した鳴き方は、柔らかい声でじゃまにならず、小鳥が鳴いているという雰囲気が穏やかな情景を醸し出してくれます。
 ゴジュウカラは、TVやラジオの中でも多い鳥のひとつです。

松田道生(2004年3月4日・起稿)

イラスト:水谷高英氏

ゴジュウカラの声(所野)>

※音声を聞くためにはリアルプレヤーがインストールされている必要があります。


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