−宝石のような−

コルリ


 オオルリは木のてっぺんにとまってよくさえずるので、姿を見ることが多い鳥です。ところが、よく似た名前なのにコルリは姿をなかなか見せてくれません。私の40年近いバードウォッチング歴のなかで、生のコルリを見たのはわずかに2回、コマドリと同じ回数です。


 コルリとの出会いの1回目は昔、軽井沢星野の森の中でぼんやりと座っていると、この鳥が目の前にひょっこり姿を現してくれました。まるで宝石のような瑠璃色で、暗い森の中でそこだけスポットライトが当たっているように見えたのを覚えています。「ああ、バードウォッチングをしていてよかった」と思うときです。それも一瞬で、ちょんちょんを地面を走るように藪の中に消えていきました。
 日光通いをはじめて稲荷川下流域での録音がもっぱらの楽しみになってから、この鳥との2度目の出会いがありました。このときも録音をするために音を立てず、じっと座っていました。目の前の柵にコルリが胸をはってすっくと舞い降りたのです。そして、一瞬のうちに飛び立っていきました。それでも、背中のコバルト色とお腹の白とのコントラストが目に焼き付いています。
 コルリとの出会いは、どうも気配を消してじっと座って待つというのがコツのようです。歩いて鳥を探すバードウォッチングでは、この鳥との出会いはあまり期待できない方法ということになります。


 姿は見せてくれない反面、声はよく聞きます。日光でこの鳥の声を聞いたことのある地名を上げると、和代峠、稲荷川下流域、雲竜渓谷、ひねり木沢と、だいたい標高1,000m前後から上の山地です。会員のTさんは、さらに高い標高1,600mの湯の湖のほとりで出会っていますから、亜高山帯まで分布していることになります。
 姿が見えないというひとつの理由が、ササなどの下草が良く茂った林を好むことです。スギの植林地でもいたことがあります。しかし、下草の量が多いのは広葉樹の林です。モミジなどの樹種の林で、ツツジの灌木がところどころにあって、ササが一面を覆っているという環境がよろしいようです。ということは、日光のあちこちにある環境でもあります。それだけに、コルリは日光で出会いの多い鳥と言うことになります。
 さえずりは「チチチ」という前奏の後に「カラカラカラ」と軽やかに一気に歌い上げる感じに鳴きます。この「カラカラカラ」はコマドリによく似ていて、これだけを聞くと私もよくどちらか迷います。前奏を確認することが一番です。また、コルリのほうはしばらく聞いていると複雑な節まわしで鳴くことで区別することができます。

 名前の似たオオルリはヒタキの仲間。コマドリとコルリは体の色こそ違いますが、どちらもツグミの仲間で、分類的には近い種類です。それだけにさえずりも生態もよく似ていることになります。
 共通点を上げれば、どちらも渡り鳥で日本に夏にやってきます。また、分布はコマドリのほうが狭く日本列島とその周辺、コルリも日本列島と中国東北部とあまり広くありませんが、これまたどちらも日本周辺限定の鳥なのです。食べているものも昆虫食、藪のなかを探して捕らえます。大きさは、コマドリの全長が14cm、コルリが14cmとほぼ同じ。コルリのほうが顔が細く、コマドリはやや丸い程度の違いはありますが長めの脚の体型もよく似ています。
 この両種の違いは、同じような環境でもコルリが比較的標高の低いところ、高いところにはコマドリがいるといったように、うまく分かれていることです。この生息地の違いから体の色が異なるという分化をしたのでしょうか。コルリとコマドリの違いを考えただけでも、種の違い、種の変化がどのように行われてきたのか、考えるのによい材料となります。
 ただし、日光限定でこの両種の生息地をみると、雲竜渓谷や湯の湖周辺では、両種がほぼ同じ地域で見られるのです。雲竜では、コマドリだと思って録音をして、家へ帰ってじっくり聞いていたらコルリだったことさえあります。ミクロな環境で見れば、地面のほうが好きとか、藪の上のほうが好きといった違いがあるかもしれません。これだけ似た2つの種類の鳥ですから、何か微妙な棲み分けをしていることになるのでしょう。姿の見えない鳥たちだけに、この謎解きは時間がかかりそうです。

松田道生(2004年2月19日・起稿)

イラスト:水谷高英氏

コルリの声(ひねり木沢)>

※音声を聞くためにはリアルプレヤーがインストールされている必要があります。


日光野鳥研top