−憧れの・・・−

ヤマドリ


 ヤマドリは、バードウォッチャーあこがれの鳥のひとつです。多くはない鳥ですが少なくもなく、会えるときは会えるけど逢おうと思っても逢えない、なんとも思いをかき立てられる鳥なのです。
 日光におけるもっとも古いヤマドリの記録は、日光を世界に紹介したアーネスト・サトーのもので、1872年3月19日、栃木県日光東照宮の敷地で「12羽ほどの銅色の雌雄の鳥がぱっと飛び立った」と書かれている『日本旅行記』ものです。ヤマドリの英名はCopper Pheasant、翻訳者は直訳してしまったようです。
 私のヤマドリとの出会いで印象的だったのは、梅雨時に小倉山の鳴沢沿いの道を歩いているときに、目の前の探索路をゆっくりと歩いていく姿です。曇り、それも森の中ですからかなり暗かったと思います。しかし、そこだけスポットライトが当たっているかのように輝いていました。これは、もちろんヤマドリの雄です。ただし、ヤマドリの雄との出会いは、これ1回かぎりです。10年間、日光に通っていてこの程度。なんとも、貴重な体験です。


 ヤマドリの雄は、春に翼を打ち鳴らし、さえずりの代りにしていることが知られています。これを「母衣打ち」と呼んでいます。「ドドド・・・」と聞こえる重低音の響きは、近くで聞くとお腹に響きます。これは自然観察会のとき、雲竜渓谷の日向ダムの近くでエゾハルゼミの合唱のなかから聞こえたことがあり、運の良い参加者数人が聞くことができました。
 今年(2003年4月14日)、早起きをして稲荷川下流域奥の森のなかで録音をしていました。私の録音方法は実に安直なもので、マイクをノイズが少なく鳥の多そうな方向に向けセットをしたら、自分の立てる音が入らないようになくべる後ろに離れてじっとしています。この時は切り株に腰を下ろし、新たに入手した補聴器が耳の望遠鏡として有効かどうか、試しに聞いていました。補聴器から聞こえる音は、私の経験ではマイクを通して聞くようにたいへん音が大きく聞こえ、これはいいやと思っていると「ドドド・・・」とヤマドリの母衣打ちが聞こえたのです。そっと時計を見て時間を確認、あとで録音されているか楽しみです。
しかし、家に帰って大型TVのスピーカーを通して音を出し、いくら探しても母衣打ちは聞こえません。さらに、コンピュータに設置してあるUSBスピーカーでも聞こえません。マイクは指向性のあるタイプ、補聴器は無指向性、たまたまマイクがヤマドリのほうを向いていなかったのかとがっかりしていました。
 ところが、なんの気なしに大型のスピーカーで聞いていると、なんと母衣打ちがかすかに入っているのです。さっそく、ノイズに陰に隠れた音を増幅して、なんとか聞こえるようにしました。そうすると約2秒間にド、ド、ドロロと3回聞こえます。その1回ごとは、小さく1回大きく3回、大きく3回小さく1回、最後に大きく5回、合計13回叩いていることがわかりました。けっこうせわしなく叩いていることになります。
 雄との出会いはこの程度ですが、雌は東電池、稲荷川下流域で出会っています。東電池のときは、足元から数羽が飛び立ってびっくりしました。また、先日(2003年5月10日)に日光植物園でTさんが雌の尾羽を拾いました。飛び立ったのも、拾った尾羽も、先が白くてわかるのです。また、霧降高原の見晴台コースでエナガの巣の中にヤマドリの羽毛が入っているのを見つけたこともあります。羽毛といえばオオタカにでもやられたものなのでしょうか、乗馬クラブの牧草地にある切り株の上に雄の羽毛が散っていたこともあります。
 狩猟鳥に詳しい会長が、ヤマドリがいるといってあげる地名は、日光駅の手前の森の七里、滝尾神社の白糸の滝の上流の天狗沢、モッコ平、大真名子と帝釈山の間の富士見峠などです。標高500mくらいから2000mまでとかなり広範囲です。
 会長と私の体験と合わせると、日光では各所に生息しており、けして少ない鳥ではないことがわかります。ヤマドリの生息環境として、沢沿いの林という感じがありますから、沢の多い日光ではヤマドリは少ない鳥ではないのかもしれません。
 バードウォッチャーの多くが、日光というと戦場ヶ原でバードウォッチングをしているために、ヤマドリは日光では少ない鳥という印象があるのかもしれません。

松田道生(2003年5月19日・起稿)

イラスト:水谷高英氏

ヤマドリの母衣打ち(稲荷川下流域)>

※音声を聞くためにはリアルプレヤーがインストールされている必要があります。


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