−渓流大好き−

カワガラス


 

 日光は、水が豊富です。そこここに渓流が流れています。それだけに渓流をすみかにする野鳥が多いのが日光の野鳥の魅力にもなっています。
 なかでもカワガラスは、日光の渓流があれば必ずと言ってよいほど見られる渓流の鳥の代表です。たとえば、千手ヶ浜に流れ込んでいる小川から、大谷川まで、流れのあるところには、かならずと言ってよいほど生息しています。
 おそらく湯滝の上、湯川、戦場ヶ原や赤沼、竜頭の滝あたりでの出会いが多いのではないでしょうか。このほか、霧降大橋のところで合流する鳴沢など、この鳥の多い渓流です。
 どちらかというと細目の流れが好きです。春から夏に見られるのは、沢という名前が付いているような細い流れです。繁殖は、このような流れのなかの岩や砂防ダムのすきまです。ところが、秋から冬になると比較的太い流れの大谷川で姿が見られます。日光のなかで、微妙に住むところを変えている鳥でもあります。
 カワガラスに会いたければ、渓流のほとりに立って待っているとよいでしょう。しばらくすると必ず「ビッ、ビッ」と鳴きながら、渓流の流れに沿って低く飛んでいくことでしょう。
 流れがS字のように曲がっていれば、その形に沿って飛んで行きます。けして、ショートカットして近道を行くことをせず、流れから離れず水の上を飛んでいこうという意気込みがなんとも健気です。
 渓流の鳥の代表、オオルリは姿も声も美しい鳥です。セキレイの仲間も同様。ミソサザイは姿が地味ですが、さえずりの複雑さ、声量は天下一品です。


 ところが、同じ渓流の鳥のなかでカワガラスは、黒く見える焦げ茶色。おかげでカラスの仲間でないのにカラスの名前をもらっています。声もふだんきかれるものは「ビッ」や「ギョッ」といった、目立たないものです。
 オオルリなど渓流の鳥たちの声がきれいなのは、騒がしい渓流の音に負けないように鳴かなければならないからといわれています。しかし、カワガラスにはこの法則が当てはまりません。
 実はカワガラスのさえずりは複雑で、とても大きな声なのです。「野鳥大鑑鳴き声420」に収録した蒲谷鶴彦先生が録音したさえずりから無理矢理カタカナ表記をすると「ビスビス、ジュッジュッ、ビリッ、ビス、ジュビチュリリ」といったところ。鳴くのは早春の一時期だけで、いつも聞かれるわけではない季節限定の声なのです。
 私がカワガラスのさえずりを聞いたのは、わずかに1回。小倉山の散歩コースを鳴沢に沿って、歩いてるときです。しいて表現すれば「ギュロロロ・・・。キョロキョロ」と大きな声で鳴きながら、渓流の上を飛んでいきました。これが、カワガラスのさえずりを聞いた現在、唯一の経験です。もちろん、録音はできませんでした。まだ、寒いときで岸辺には雪が残っていました。このように、カワガラスは繁殖の早い鳥です。もう2月頃には、巣材を運び込むようすが見られます。ですからさえずりも早く、この時期だけなのでしょう。


 カワガラスのさえずりを録音するのは、無理とあきらめても、いつもの「ビッ、ビッ」という声をなんとか録りたいと思いました。そこで、いつもよく見られる鳴沢のほとりにマイクを置いて、そのまま鳥が通るまで録音機を回しておくことにしました。そうすれば、テープ1本90分の間に1度くらい鳴きながら飛んでいくってくれるのではないかと思ったからです。
 マイクをしかけて、じっとまっていると案の定、川上からカワガラスが岩の上を食べ物を探しながら、少しずつ近づいてきます。ところが、なかなか鳴いてくれないのです。もちろん、マイクの前を通るとき無口でした。しかし、ある程度まで下流に行くと、いっきに上流に飛んでいきます。なんと、このときに鳴いてくれました。
 よく見ていると、流れを下るときちょんちょんと少しずつ、食べ物を探しながら行くのです。そして、おそらくなわばりもはずれまで来ると、いっきに飛んでまた上流のなわばりのはずれまで行くようです。そして、またちょんちょんと歩きながら、下っていくのです。これを何回か繰り返していました。
 そして、この下流から上流へ一気に飛ぶときに、鳴きながら飛んでいくことが多いようです。それでも、約1時間にたった2回。なんとも、無口な鳥です。

松田道生(2003年1月2日・起稿)

イラスト:水谷高英氏

カワガラスの声(鳴沢)>

※音声を聞くためにはリアルプレヤーがインストールされている必要があります。


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