−日光を代表する猛禽−

ノスリ


 日光でもっともよく出会うことのできる猛禽類は、ノスリでしょう。イヌワシのように大きくもなく、ハヤブサのように精悍でもなく、オオタカのように少なくもないために、残念ながらバードウォッチャーの評価はちょっと低めです。出会えば、トビよりはうれしいかなという程度のタカです。


 しかし、このノスリの語源には深い意味がありました。以前、知人の韓国の鳥類学者に主な鳥の名前の韓国名を教えてもらったことがあります。もちろん、ローマ字で書いてもらいました。そうしたら、猛禽類の多くには”スリ”とついているのです。日本語で言えば、○○タカといったところでしょう。野原にいるために日本語の”野”がついて野の鷹という意味が、どうも語源のようです。いわば、かつての日本と朝鮮半島の文化の親密さを今に残す名前なのです。
 探鳥会のリーダーのなかには、野をするように飛ぶためにノスリという名前が付いたのが語源という説をいう人がいますが、そんな単純なものではないと、私は思っています。ちなみに、トキ、シギ、カササギの”キ”、ホトトギス、ウグイス、カラスの”ス”、ミソサザイの”サザイ”も韓国語の鳥の名前に多い言葉です。


 さて、日光でノスリに会えるのは、ほぼ一年中。出会う場所も、どこでもです。たとえば、小倉山ではここ数年、毎年繁殖をしているようで、春にはディスプレイフライトが見られ、7月には巣立った若鳥が「ピィー、ピィー」鳴いているのを聞きました。稲荷川下流域でもほぼ同じです。直線にして約2km離れてノスリのなわばりがあることになります。
 今まで巣を見つけたのは、雲竜渓谷など。ここでは、切り立った崖の棚に枝を積み重ねて作られていました。隣の崖は、アマツバメのコロニーで、ノスリが巣の出入りをするために、大騒ぎをしていました。
 光徳牧場から志津に向かう林道沿いでは、冬になってカラマツの葉が落ちると、ノスリの巣が見つけ易くなります。ここでは、崖ではなく、樹木の上に枯れ枝を集めて皿形の巣を作っています。カラスより二まわりくらい大きな巣です。ノスリは、イヌワシのように崖、クマタカのように樹木の上にも作るという臨機応変な巣作りです。
 録音をしていると、ノスリの声が良く録れます。比較的良く鳴く鳥です。はじめて、稲荷川下流域に行ったのは、ノスリの鳴く声に誘われて、マイク片手の林道を歩いていくと、まるるで庭園のような場所を見つけたことがきっかけで、ここに通い始めました。このときは7月で、きっと巣立った幼鳥が親鳥を呼んでいる声だったかも知れません。
 野州原林道でも裏見の滝から入って、日光連山が一望にできるところで数羽のノスリが鳴き合っていたのを見たことがあります。そういえば、中禅寺湖のスキー場でも同じ光景を見たのを思い出しました。これも巣立った幼鳥が含まれた家族の群れです。梅雨が開けて夏休みになる頃がちょうどノスリの巣立ちの時期のようです。

 ノスリの食べ物はネズミが主、小鳥も捕らえる猛禽です。ですから、どちらというとネズミの多い農耕地で見ることの方が多いのです。たとえば、山形の庄内平野の農道を冬に車で行くと、田圃の杭、ハウスの角、用水沿いの灌木に必ずいってよいほど、ノスリがとまっています。ネズミが出てくるのをじっと待ちかまえているのです。
 小倉山には乗馬倶楽部の牧草地、稲荷川下流域には空き地、光徳は牧場、戦場ヶ原は開墾地、中禅寺湖スキー場も広い草原があります。このようにノスリと良く出会う所には、ネズミが、草地で上から見つけやすく捕らえやすいからでしょう。
 市内から日光連山を見ると、ところどころにササ原が見えます。霧降高原やもっこ平では、かなり広い草地でやはりノスリの多いところです。私たちが思っている以上に、日光はネズミが多いところなのかもしれません。

松田道生(2002年7月21日・起稿)

イラスト:水谷高英氏

ノスリの声(日光市内稲荷川下流域)>

※音声を聞くためにはリアルプレヤーがインストールされている必要があります。


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