−哀愁をおびたさえずり−

マミジロ


 野鳥カメラマンのN氏から「日光ってマミジロが多いですね」と言われました。彼に言われるまで、私が日光で見たマミジロはわずか1羽。ですから、マミジロは日光で少ない鳥だと思っていたのです。
 マミジロはツグミの仲間です。夏鳥で日本には4月下旬から5月はじめに渡ってきます。比較的大きく、ムクドリくらいの大きさに見えます。名前のように雄は全体真っ黒な体に白い眉が目立ちます。
 マミジロの分布は東アジアのみ、日本での分布は本州中部より北。図鑑に「本州では標高700m以上の落陽広葉樹の林」と書かれています。しかし、どこにでもいるというわけではなく、たいへん局地的な分布をしています。私が日光以外で見たのは長野県中軽井沢、蓼科高原くらいです。
 N氏によると霧降高原で良くさえずりを聞き、見るというのです。私は霧降の滝には野趣があって日光の滝のなかではいちばん好きです。そのため、四季を通じて通ったことがあります。また、手頃なハイキングコースになっている見晴らし台までの道は何度も歩いています。しかし、マミジロが多いと思うほど会ったことはありませんでした。ただし、それまで日光での唯一の出会いはやはり霧降高原のエリアでした。メルモンテ霧降(当時はまだなかった)のあたりからコースがはじまる見晴らし台への道です。ここは、霧降大橋のところで合流する鳴沢の上流にあたります。有料道路から道を下って、ぶつかった渓流のほとりでマミジロのさえずる声が聞こえました。探すとミズナラの梢でさえずっているマミジロの雌の姿を見つけました。茶色く見えたので、このときは雄の若鳥とメモしました。しかし、マミジロは1年で雄は雄の姿になることがわかりましたので、私の見たのは雌。そして、後で調べたら雌もさえずることが報告されていました。

 そうこうしているときに、霧降高原で録音したアカハラのさえずりを改めて聞く機会がありました。これは、霧降有料道路の大駐車場の下あたりの大きなカーブで録音したものです。なんとこの音源のなかのアカハラのさえずりにまじってマミジロのさえずりが入っていたのです。やはり、マミジロはいたのです。
 アカハラのさえずりは、元気に聞こえます。「キョロン、キョロン、チリリ」という鳴き方は、メリハリがはっきりしていて力強く感じます。1節と1節の間も短く、立て続けに鳴くことも、元気な印象を与えます。
 ところが、マミジロのさえずりは「キョロル。チリリ」と短く、節と節の間も長いものです。そのため、声はたいへん寂しげに聞こえます。よくいえば、たいへん哀愁を帯びもの悲しい印象を与えます。聞きようによっては、まるで何かを訴えかけているかのようにも聞こえます。それだけに、目立たないさえずりなのです。弁解がましく言えば、そのために私は聞き落としてしまったのです。

この録音は、午前3時に起きて現地におもむき、まだ暗いうちにテープを回したものです。というのは、昼間にはアカハラをよく見るわりには、さえずりをほとんど聞くことがないのは、この鳥は日の出前にさえずることがわかったからです。そして、なんとアカハラだけでなく同じツグミの仲間のマミジロも日の出前に鳴くという習性だったのです。
 ヨタカが稲荷川下流域で黄昏時から鳴くこと知って、夕方のビールを我慢して出かけることが多くなりました。そしたら稲荷川下流域でも夕方、マミジロが良く鳴いていることに気がつきました。2羽が、鳴き合っていることもありました。そして、昨日は夕闇の中、草を刈った後の地面でさかんに食べ物をさがしている姿をじっくりと観察することができました。薄暗いなかで、白い眉がきらりと光っていました。
 早起きをしたといっても午前6時、ビールタイムの午後6時で店じまいの私のバードウォッチングのしかたでは、マミジロには出会うことができなかったのです。


 また先日、雲竜渓谷に向かう林道では、濃霧に覆われた林のなかからさえずりが聞こえてきました。なんといっぺんに4羽がさえずり、同時に目の前の地面でミミズを口いっぱいにくわえた雄が飛び跳ねていました。50メートル四方にこの密度です。雲竜には、何度も通っていますが、こんなことは初めてです。
 このときも暗いときです。これらを総合すると、どうもマミジロは暗いときに活動がさかんになるようです。霧が濃ければ、これまた雨が降りそうと判断して、私のバードウォッチングは撤収モードに入ります。これではマミジロに出会えるわけがありません。
 鳥との出会いを考えたとき、今までの既成概念を捨てて、生活のパターンを変える必要があると実感させてくれたマミジロでした。

松田道生(2002年7月14日・起稿)

イラスト:水谷高英氏

マミジロのさえずり(雲竜渓谷)>

※音声を聞くためにはリアルプレヤーがインストールされている必要があります。


日光野鳥研top