−ヨタカの会えて良かった−

ヨタカ


 森のコーラスを織りなすシジュウカラ、キビタキ、モズの声が止み、昼間のさえずりの最後をアカハラが寂しげな声で締めくくります。森は、闇と静けさにつつまれいき、木々の間から一番星が輝いて見えます。そんな頃、鳴き始めるのがヨタカです。
 「キョキョキョキョ・・・」と一本調子で鳴く特有の声は、一度聞いたら忘れることはないでしょう。


 私は、日光にはヨタカはいないと思っていました。というのは夕方、ベランダで沈む夕日を見ながらビールを飲むのが日光に来ていちばんの楽しみです。ビールを飲んだ後、車に乗ってヨタカなどの夜の鳥を探すのは、交通違反になっていまうからです。それに、朝早く起きて野鳥のコーラスを楽しんだら、もうその日は疲れ切ってしまい夜の部まで、がんばれません。
 ヨタカがいなのではなく、ヨタカが活動する時間に私がいなかったわけです。
 一度、試しに夜の森に行ってみようと思ったのは録音を始めて、どんな鳥が鳴いているか確かめたかったのです。日が沈んで、闇が森を包む頃、森の中から聞こえてきたのか、このヨタカの声。鳥肌が立ちました。


 ヨタカは夏鳥ですから、声を聞くことができるのは、5月に入ってから。じめっとした蒸し暑い梅雨時が、活動が活発で8月にも声を聞くことがあります。
 いちばん手軽にヨタカの声を聞くことができるのが外山のあたりの稲荷川下流域です。ヨタカの主食は夜行性のガです。これを飛びながら空中で捕らえるのです。ですから、木がびっしりはえているうっそうとした森林よりも、飛び回ってガを捕らえることができる森の中の空き地のようなところが好きです。
 ヨタカは本来、里山の野鳥です。昔は身近な野鳥だったはずですが、里山が荒廃し減少していくとともに減っていった鳥です。それに、30年くらい前は夜の山荘の窓には気持ち悪いくらいガが集まったものです。ところが、最近では日光でも窓にガが来ることは少なくなりました。食べ物が少なくなったのですから減るのは当然です。


 しかし、自然の豊かな日光、ヨタカはまだ健在です。
 また、志津小屋に泊まったときにもヨタカの声を聞きました。志津あたりは、標高1800m近くありますから、ずいぶん高い所までいるものだと思ったものです。もともと、いたのでしょうか。それとも、高いところまで追いやられたのでしょうか。知りたいところです。


 夜の鳥、ヨタカですからなかなか姿を見ることはありません。過去のヨタカの姿との出会いを列記します。軽井沢では、夕方の暗闇が迫るなか木の枝にとまって鳴いているのを見たことがあります。ヨタカは枝のとまり方が特殊で、ふつうの鳥のように木の枝にクロスするようにとまるのではなく平行にとまります。一見、木の大きなコブのように見えるのです。体の色は細かい褐色の濃淡の模様ですから保護色です。そして、とまり方がさらに効果を上げます。


 山中湖では、キャンプファイヤーの火に集まったガを狙って来たのか、頭の上を飛んでいきキャンプファイヤーの明かりの照り返しで、はっきりと翼の裏側の細かい模様が見えました。
 日光では、ヨタカの声を録音した帰り道、道の真ん中でヘッドライトの中に赤いルビーのような光が見えました。はじめは、道の真ん中にコカコーラの缶でも落ちていると思ったのですが、その光がふわっと飛び立ったのです。赤く見えたのは、なんとヨタカの目だったのです。
 外山付近の舗装道路で車をとめて、ヨタカの声を録音していました。ヨタカが近くに飛んできて、鳴きながら飛び回ってくれました。そして、電線にとまって鳴いてくれました。前述のように、ヨタカはとまるときはとまり木に平行してとまります。細い電線でも、いつもと同じように平行にとまろうとしているのです。ふらふらしていて、なんとも安定しません。それでも、懸命に電線にとまるヨタカ、健気でもありました。


 日光には、まだヨタカのいそうな所は、あちこちにあります。夏の黄昏時は午後7時、ヨタカと出会って家に戻ると8時、お腹はぺこぺこ、喉もからからです。
 日光での楽しみは、夕方のビールをとるかヨタカとの出会いをとるか、悩みはつきません。

松田道生

イラスト:水谷高英氏

ヨタカの声(日光市内稲荷川下流域)>

※音声を聞くためにはリアルプレヤーがインストールされている必要があります。


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