−魅惑の野鳥−

オオルリ


 日光の野鳥のなかで、もっとも魅力的な鳥といえばオオルリ。雄のコバルト色の頭から濃紺の体、そして黒い喉、白い腹のコントラストが美しい鳥です。そして、天は二物を与えずのことわざに反し、さえずりは複雑で変化に富み天下一品です。


 日光の初夏の訪れは、このオオルリのさえずりからと言っても良いでしょう。それだけに、日光のいたる所で美しいさえずりと姿を堪能することができます。
 オオルリは、冬は東南アジアなどで過ごし、日本には夏にやってくる渡り鳥、夏鳥です。日光ではだいだい4月25日頃に姿を見せ始めます。東京の六義園で観察していると、オオルリが通るのは4月24日以降から5月上旬です。同じ夏鳥でもキビタキは、やや遅く5月に入ってからの記録が多い夏鳥です。同じように日光にも、オオルリの方がキビタキより1週間ほど早く到着します。
 とくに連休中の日光では、渡ってきたばかりのオオルリとあちこちで出会います。群で渡る鳥とは思えませんが、東電池のほとりの雑木林で一度に6羽のオオルリに出会ったことがあります。福田豊会長も別の年、同じ頃に同じ場所でオオルリの群を見たと言っていますから、どうも東電池のほとりはオオルリの渡りの通り道のようです。
 また、連休中に日光植物園の池のまわりで3羽のオオルリが追いかけ会っているのを見たこともあります。渡ってきたばかりの雄が、なわばりを確保しようと争っていたのでしょう。


 さえずりは、7月上旬まで聞くことができますが、なんと言っても5、6月がオオルリの季節といっても良いほど活動が活発です。
 オオルリのいるところは、沢筋です。渓流沿いにはえたサワグルミやモミの木のてっぺんにとまって胸を張り大空に向かってさえずる姿がオオルリらしいロケーションです。
 ですから、渓流が森のなかを流れているような所に多い鳥です。下の方では、日光駅のすぐ近くの小倉山周辺は鳴沢が流れているので霧降大橋を渡ったあたりから小倉山の頂上にかけて。霧降別荘地も東武橋周辺からジャパン・トータルクラブやゴルフ場あたりです。稲荷川流域は、東照宮の裏から滝王神社周辺。さらに奥の雲竜渓谷までいます。この他、裏見の滝、寂光の滝などの周辺。
 いろは坂を登っての戦場ヶ原周辺では出会ったことはありませんが、湯滝下の駐車場のモミの木のてっぺんで優雅にさえずるオオルリを見ています。やはり、滝や沢のあるところが狙い目です。


 オオルリの姿はたいへん美しいのですが、姿は木のてっぺんでさえずるために下から見上げることが多く、逆光でシルエットだったり白い腹しか見えないことが多いことも確かです。その点、起伏の多い日光では山の中腹を通る林道から、眼下でさえずるオオルリをじっくりと観察することができます。オオルリのコバルト色の頭や濃紺の背中をじっくりと堪能する機会も多いところです。


 オオルリは、録音のしづらい鳥と言われています。というのは、渓流の近くが好きなので沢音がうるさくきれいな録音ができないのです。初めてオオルリを録音したのは、霧降大橋を渡ったばかりの小倉山でのこと。大谷川の流れの音がゴウゴウと入ってしまい、オオルリの声がかき消えてしまいそうにしか録れませんでした。しかし、日光はオオルリが多い、そのため沢から離れた稲荷川下流域、霧降別荘地でもよく鳴いています。どうも、こういった沢から外れたところにいるものは、独身者のようで、夏になっても良く鳴いているし昼間も鳴いてくれるので録音が楽でもあります。


 ところで、オオルリの雄はさえずる姿や飛んでいる虫を空中で捕らえる姿など、よく見ますが、雌を見ることは希です。
 一度、別荘地の軒先から飛び出てきた雌を見たことがありますが、軒の下に巣がありました。残念ながらこの巣は壊されてしまいましたが、このときも道を横切る程度の瞬間でした。また、TV番組で4日間、東武橋周辺でオオルリを追いかけたことがありますが、雄が姿をよく見せるものの雌を見たのは藪の中をちらっとよぎる程度でした。
 ふつう鳥は、雌雄とも同じ環境の同じ場所で生活をしていることが多いのですが、どうもオオルリは雌雄では同じ場所にいても別々のところを利用しているようです。要するに、同じなわばりのなかで、雄は森の高い部分から空中を利用し、雌は下の方の藪などで食べ物を探しているようです。同じ種類でありながら雌雄で棲み分けをしている印象があるのです。同じ環境を雌雄で2重に活用することで、狭く限られた渓流周辺の環境を有効に活用しているのではないでしょうか。

松田道生

イラスト:水谷高英氏

オオルリの囀り(日光市内稲荷川下流域)>

※音声を聞くためにはリアルプレヤーがインストールされている必要があります。


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