焼石金剛

野鳥紀行の最初のページ

 日光の街から日光連山を見上げると、右側が霧降高原。左側の男体山からわき上がった雲が右に流れて、よく雲に隠れていることが多く、霧降とはよく言ったものです。
 雲に隠れていなければ、いちばん右に三角形のスキー場のスロープが見え、左に向かってなだらかな尾根が赤薙山に続いています。この尾根は、赤薙の手前で急な登りになっているのがわかります。この急な登りのさらに手前の少しもりあがったところが焼石金剛、この尾根道を歩きました。

 今回は、霧降の活性化のために立ち上がった地元メンバーの方々と、なんと戊申の道を歩いた翌日に登ったのです。
 当日は、梅雨入り前の良い天気。ニッコウキスゲのお花畑の上を飛ぶような体験のできるリフトに乗って、小丸山まではほとんど歩きはありません。
 ここからの絶景は、日光でも有数のものでしょう。南側は、日光連山の裾野に大森林が広がっています。この森に、たくさんの野鳥たちや多くの生きものたちが生活していると思うとわくわくしていきます。とくに昨日、歩いた戊申の道のある霧降有料道路の東側の森は広葉樹が多く、野鳥との素晴らしい出会いを予感させます。
 正面、西には赤薙のとがった頂上が見えます。そして、南に向かって落ち込むような急斜面、その先は稚児の墓あるなだらかなササ原が広がっています。いつも歩いているところを別の角度から見ると、また新鮮な感じです。北側には、目の前にまるで大盛りのどんぶりのような形の丸山が見え、そのさきには大笹牧場の広大な草原、そして会津の山々がうす紫色に霞んで見えます。

 さて、いよいよ山歩きの開始です。まず、出迎えてくれるのがウグイスのさえずり。ササの多いこの一帯では、そこかしこからウグイスのさえずりが競って鳴き、とぎれることがありません。近くでカッコウがおなじみの声でさえずり、高原のムードを盛り上げてくれます。遠くで、ホトトギスも鳴いています。
 登山道は、石がゴロゴロしていてたいへん歩きにくく、思った以上に急な登りです。考えてみれば、スキー場のスロープと赤薙山頂上手前の急斜面に挟まれた尾根道なので、遠くから見ると目の錯覚で、なだらかに見えてしまっていたのです。
 しばらく歩くと、たちまち背中は汗びっしょりになりました。そんな、疲れを吹き飛ばしてくれたのが、風に乗って聞こえてきたノビタキのさえずりです。「ヒュー、リーリー」などと聞こえる柔らかい声で、短い節を数回繰り返したかと思うと、濁った声を交えた複雑な節を入れます。日光のノビタキと言えば戦場ヶ原が有名ですが、人が多いのといつも遠くで鳴いているため録音はできませんでした。ところが、ここではすぐそばのツツジのてっぺんにとまって、さえずってくれます。また、飛び立っても、また元の場所にもどってくれます。さっそく録音開始、まずまずの音が録れました。
 だんだん登りがきつくなって、足下ばかり見るようになると、小さな白花が目に付きました。後で調べたらタカネラン、高嶺の花は可憐で清楚でした。
 大きな岩がゴロゴロしたところにたどり着くと、そこが焼石金剛。小さな祠があって、ここでお弁当です。ここまで来ると、あの大きく見えた丸山が目の下に見え、赤薙山の頂上が目の前です。”ちょっと登れば”頂上のように見えますが、あと2時間はかかるそうです。ここでは、標高が高くなったことでメボソムシクイ、ルリビタキの亜高山帯の鳥たちの声が聞こえてきました。

 下って、小丸山の分岐から丸山に向かいに頂上へ登ります。いっけんなだらかな山なのですが、頂上付近は結構急です。ここからは、六方沢や八方ヶ原(やっぺがはら)など、あまり見たことがない風景を違った角度から見渡せます。
 帰りは、リフトを使わずにスキー場の横にある登山道を下りました。連日の山歩きで、膝はガクガク。そんななか、盛んにノスリが鳴いているのに気がつきました。丸山の斜面をバックに2羽のノスリが、鳴きながら飛んでいるのが見えます。ところが空をバックに飛んでいる1羽がやけに大きいのです。なんとクマタカ。クマタカにむかって、ノスリが警戒飛行、あるいはモビング(擬攻撃)を行っているところでした。
 もうすぐ高原ハウスという手前で、モミの木の皮が大きくはがれているのをWさんが見つけました。クマ剥ぎです。クマが甘い樹液を舐めるために木の皮を剥ぐのだそうです。昨日、戊申の道で会ったクマの仕業でしょうか。また、皆の足取りが早くなりました。

松田道生
2004年6月16日取材  2004年8月30日・起稿


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