日光と東京のシジュウカラ

野鳥紀行の最初のページ


 去年、本サイトに日光と東京の野鳥の関係を寄稿しました。夏鳥の通過と時期と頻度が、微妙に一致していることをいくつかの例をあげてみました。今回は、一年中同じ場所にいる留鳥の違いについてお話しましょう。

 東京にも日光にもいる身近な鳥の代表シジュウカラがさえずっていると、「日光のシジュウカラと東京のシジュウカラとどちらが声がきれいだと思いますか?」と質問をしてみます。多くの方が「自然の豊かな日光のシュウカラのほうが、さえずりがきれいでは」と答えてくれます。

 日光のシジュウカラ【1998-3-29 日光稲荷川下流域】(MP3/229KB)

 東京のシジュウカラ【1998-4-11 東京六義園】(MP3/224KB)

 ところが、東京のシジュウカラのさえずりの方がきれいに聞こえるのです。きれいとか、汚いというのは主観ですから人によって、聞いた感じは異なります。そこで、さえずりを録音して声紋で比較することで違いがわかります。
 シジュウカラのさえずりを無理矢理カタカナで表記すると「ツピーツピー」の繰り返しです。東京のものは「ツピー」と「ツピー」の間隔が短い。ということはテンポが速く聞こえます。それに対し、日光のシジュウカラは間があり、ゆっくりとさえずっているように聞こえます。ときに、コガラに近いテンポで迷うことがあるほどです。
 また、この「ツピー」を4、5回繰り返し、これを一節として一呼吸を置いてまた、鳴きます。この間も東京の方が短く、日光の方が長い傾向があります。これによっても、東京のほうが元気がよく聞こえ、日光のほうがおとなしい感じに聞こえます。
 さらに、東京のシジュウカラは音域が低いところから高いところまであるのに比較して、日光のものは高い音が少ない。ということは、東京のシジュウカラのさえずりは、張りがあり鋭く聞こえ、日光のシジュウカラはのんびりとまろやかな声と言うことができます。もちろん個体によって多少の違いがありますが、比べて聞くとそんな違いの傾向があると思います。

 この違いはなんなのでしょう。録音をしたものをよく聞いていると東京のシジュウカラのさえずりの奥では、おなじくシジュウカラがさえずっています。多いときには数羽が鳴きあっています。ところが、日光の録音ではシジュウカラの奥でオオルリやキビタキが鳴いていてもシジュウカラの声は聞こえないのです。
 春に都内の公園を歩いて見ると、シジュウカラがさかんにさえずっています。このさえずっているポイントを地図にマークをして、鳴き合っているところをチェックしていくと、なわばりの地図が描けます。そして、そこに何羽のシジュウカラが生息しているか、おおよその見当をつけることが可能です。このように、東京のシジュウカラは連続してなわばりがあり、それだけ高密度で生活していることになります。
 ところが、日光でシジュウカラに会って、つぎにまたシジュウカラに出会うのは山をひとつ越えたくらいというとオーバーですが、連続して生息している場所は多くありません。
 東京のシジュウカラは密度が高い、ということは競争が激しいことになります。さえずりは、なわばりを宣言し雌を確保するためのものです。それだけに声が大きく張りのあるものが有利となります。雌を確保することができて、自分の遺伝子を確実に次の世代にゆだねることができます。また、より良い環境のあるなわばりを確保できるわけですから、雛もたくさん巣立たせることができるでしょう。その結果、東京のシジュウカラは声の良い遺伝子を持ったものが生息しているということになったのでしょう。
以前、3月に日光の滝尾神社の参道を歩いているときに、ときならぬシジュウカラの群に囲まれたことがありました。数は、およそ百羽。シジュウカラとしては大群です。今までに、これほどの群れに出会ったことはありません。しかし、東京では1月中旬にはさえずりが聞かれはじめ、3月にはしっかりとなわばりができている頃です。ところが、日光ではまだ群れで生活しているのです。
 おなじシジュウカラでも、日光と東京ではこのように微妙に生活が違うのです。この他、ハシブトガラスでは人との距離が違います。スズメはいかがでしょう。メジロの声も違うように思えますが、まだサンプルが少ないのでなんとも言えません。そして、カワラヒワ、モズ、キジバト、ヒヨドリといった鳥たちも、どこか東京で会うものと日光のものと違う感じがするときがあります。

 皆さんもそんな目で、日光とほかの地域の野鳥との違いを探してみてください。シジュウカラのさえずりの違いのように、違いがあるということは、その生活の中で重要な部分を占めているからこそ、違いが出るのであって、よりその鳥を知る手だてとなるかもしれないからです。

松田道生
2001年4月18日・起稿


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