阿世潟

野鳥紀行の最初のページ

 日光では、鳥の声を録音するために静かな所をさがし求めては、穴場探しに明け暮れている。静かな所、それはイコール自然のなか、鳥の多い所でもある。
 新しくイタリア大使館別荘記念公園ができたこともあって中禅寺湖の南岸を歩いてみたら意外とよさそうな予感。日光野鳥研究会の自然観察会もここで行った。観察会の翌日、義弟とともに、さらに奥まで歩いてみた。

 いろは坂を上がって湖岸の道を左、立木観音、半月山方面に行く。大きな駐車場がある。ここに車をおいて歩きはじめる。すぐに旧イタリア大使館公園の標識、車止めのゲートがありそこを入る。道なりにいくと、まずは現役のイギリス大使館の別荘が湖畔に建っている。さすが自然に溶け込む色とデザインである。なぜか、この周辺はシジュウカラ、コガラ、ヤマガラなど小鳥が多い。
 すぐに、整備されたばかりのイタリア大使館別荘記念公園が見えてくる。かつての大使館の別荘を県が復元したもので、周辺もテーブルや椅子を置くなど、きれいになっている。来るまでは、石造りの建物を創造していたのだが木造で、それもヒノキの皮を市松模様に貼り付けるなど和風でもある。周辺の自然にしっとりと溶け込んでいる粋な建物である。
 しかし、今日は月曜日で休み(11月から4月の冬期・閉館)。開館していれば、テラスの長椅子に座って湖岸の風景を楽しみながら、お茶がたのしめる。なお、入館は無料である。

 湖岸の道を右に中禅寺湖を見ながら歩く。湖面には白波がたつほどの強い風が吹いている。白根山から吹き降ろす北風である。それだけに、空気が澄んでいて、空は青く雲は白い。そして、湖の向こうには大きく黒々と男体山がそびえ立っている。
 湖の岸に打ち寄せる波の音以外聞こえない静かさに、いろいろな鳥との出会いに期待が膨らむ。というのは、さきほどから私たちの上をアトリかマヒワの群れがさかんに飛んでいくのである。木の上の方をかなりのスピードで行き来しているので、姿が良く見えなしマイクを向けての録音はできない。鳥の群れを追いかけるように、いつのまにか足早になっていた。
 そして、最後の人家、民宿が2件並んでいるところについた。頭の上では、マヒワの群れがさかんに木の実を食べている。やっと、鳥の群れに追いついたようだ。これで録音できると思いマイクを真上に向けて置く。ヘッドホーンからは、木の実をはむカサカサという音、そしてパラパラと木の実のかけらが落ちてくる音の合間に「チュィーン」という声が聞こえてくる。マヒワの数は、50羽ほどだろうか。食べるのに夢中で、数のわりには声は少ない。パラパラという音のほうが多いくらいだ。
 マイクに風の音が入っていないことに気が付いた。そういえば波の音も静かである。ここはちょうど八丁出島の陰にあたる。北からの風を湖に突き出た岬がちょうどさえぎってくれているのだ。

マヒワの鳴き声(142KB)

 民宿を超えるともう人家はない。大きなミズナラの林の中にところどころモミの木の巨木が点在している素晴らしい森が続いている。落葉の終わった森は、明るくて見通しがきく。それだけにいつもは警戒心が強くて姿の見づらいアカゲラの姿が良く見えた。
 そして、八丁出島の付け根にたどり着いた。この岬は、紅葉の美しい所として観光ポスターにもよく登場する。岬の中にはいり、尾根沿いにかすかに道があるので歩いてみた。以外と木と木の間隔があって開けている、どおってことのない林だ。やはり美人は遠くから見たほうが良いのだろう。
 ふと横を見るとアトリが眼の前にとまっている。こちらは岬の尾根にいるので、下の木のてっぺんにとまっているアトリの高さと目線がいっしょなのだ。いつも下から見上げることの多い鳥だけにじっくりと横顔を見ることは少ない。意外と目が大きくて可愛い顔つきをしていることを再認識した。
 この岬の先が阿世潟である。弓のようなゆるやかな波打ち際の入り江である。ここも、風が無く静かである。ゆったりと打ち寄せる波の音がよけい静けさを感じさせることに気が付いた。頭の上を相変わらず、アトリの群れが行き来している。湖畔に立つと冬枯れの林が湖面に静かに影を落としている。ソローの「森の生活」を彷彿させる風景である。
 ここで、ポットに入れてきたコーヒーを楽しんで一休み。ここでは、湖の波の音やアトリの群れの声が録音できた。

アトリの鳴き声(87KB)

 帰り道では、民宿を過ぎたあたりでカラ類の群れに囲まれた。旧イタリア大使館公園では義弟が「キバシリはいなのかな」とキバシリとの出会いを希望。しばらくして、キバシリが目の前の木の幹をするすると登っていた。噂はしてみるものである。
 それでも行きに比べれば帰りは早く50分ほど。おそらく鳥を見ないで、とっとと歩けばもっと早いことだろう。ずっと平坦な道であるし、バードウォッチングには最適なコースだ。今度は早春の頃に来てみよう。民宿に泊まって早起きしてみよう。などなど、新しく見つけた穴場の楽しみ方を考えている。

松田道生
2000年11月13日取材・2001年1月2日執筆

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