日光と東京の野鳥

野鳥紀行の最初のページ

 日光に通うようになって10年になる。
 私は、生まれも育ちも東京。バードウォッチングに目覚めてからも東京住まいだから、野鳥たちとの出会いの多くは東京とその周辺の鳥たちに限られている。
 若い頃は、北は北海道から南は鹿児島まで日本各地を飛び歩いたこともあった。さらには外国でのバードウォッチングも楽しんだ。しかし、じっくりと腰を据えて観察を続けているのは、東京と日光の野鳥たちということになる。

 東京では、近所の日本庭園の六義園での調査を継続的に行っている。わずか300m四方の緑地であるが、ここでは100種類を越える野鳥を記録している。狭いだけに目が届き調査もしやすい。これらの記録は私の宝であるし、今後充実させることがライフワークである。
 日光の野鳥がもっとも美しく輝いて見えるのは、初夏のオオルリやキビタキのさえずりがさかんな頃である。これらの鳥が、東京の六義園を4月下旬から6月上旬に通っていく。センダイムシクイは、4月中旬から5月中旬と期間が長い。オオルリは4月下旬、キビタキは5月上旬と微妙にずれる。日光への到着もオオルリの方が早い。メボソムシクイは5月中旬だが、亜種のコメボソムシクイは5月下旬から6月に入ってからの記録となる。シベリアまで渡るだけに暖かくなるのを待っての渡りなのだろう。などなど、通過していく森林の鳥たちにも、それぞれ事情があるようだ。

 六義園で記録を取り始めて12年目の1995年5月14日、はじめてクロツグミを見つけた。大きく複雑なさえずりは、六義園中に鳴り響いていた。久しぶりの出会いに関わらずクロツグミとすぐにわかったのは、その5日前、日光植物園でクロツグミの声を聞いていたからだ。しかし、その前には日光ではクロツグミとの出会いはなかった。この年からは、日光の随所でクロツグミに会うようになった。日光小学校、小倉山、霧降別荘地と今までいなかったのが嘘のようにクロツグミの高らかなるさえずりを聞くようになった。クロツグミのような大きな声でさえずる鳥を見落とすことはないと思うのだが、心配で日本野鳥の会栃木支部の日光に通っているベテランのバードウォッチャーに聞いた。やはり一時クロツグミがいなくなり私が見つけた頃から復活したと言われ、ほっとした。
 明治神宮ではよく初心者のバードウォッチングの指導を行う。1996年5月16日も、日本野鳥の会の女性だけのバードウォッチングスクールの指導で、20人ほどのお嬢さん方を引き連れて御苑のなかを探索した。このとき、サンコウチョウのさえずりが聞こえた。それも近い。姿を見ることはできなかったが、名前の由来となった「月日星ホイホイホイ」がしっかりと聞こえた。初心者の方たちだったので、この鳥の少なさも魅力も理解してもらえないのが残念。ところが、やはり同じ年の6月5日に、霧降別荘地でシジュウカラの巣を見つけた。ところが、なんとこの巣へはエナガも食物を運んでくると言うたいへん珍しい行動を発見。それを写真に納めようと奮闘している後ろで、サンコウチョウが鳴いたのである。印刷されている報告では、日光におけるサンコウチョウの記録は1966年以降ないのだ。

 去年(1999年)の5月の連休は、日光でたっぷりと野鳥との出会いを楽しんだ。東京に帰り六義園へ行くと、職員が茶色いサギが事務所の裏の林で1日いた。なんと、すぐそばまで寄れたからと使い捨てカメラで写真を撮った。現像が上がったら見て欲しいとのこと。林の中で茶色いサギといったらミゾゴイしか考えられない。でも私は30年以上、鳥を見てるが、まだ出会ったことはない。そんな珍しい鳥が私の留守にいたのか。現像の上がるのをわくわくして待った。上がってきた写真を見ると、予想どおりミゾゴイが写っている。ちょっと悔しいけど、都内でミゾゴイの記録とはかなりすごい。
 そして、日光にて稲荷川下流域でミゾゴイがいると、会員の下野ご夫妻から電話がはいったのは、5月29日。翌日、行ってみると、なんとミゾゴイが昨夜いた林の下草がすべて刈られ鳥の気配もない。ミゾゴイとのファーストコンタクトは夢となった。私の東京で出ると日光でも会えるというジンクスの3度目は叶えられなかったが、下野さんのおかげで日光と東京の野鳥との関係の3例目の記録となった。
 そして、日光野鳥研究会の発足。第1回自然観察会に先立ち、新明清子さんと日光植物園でバードウォッチングを楽しんだ。2人で、含満ヶ淵あたりを歩いていると、新明さんが「あっ」と言って鳥を見つけた。一瞬遅れて私が目をむけると、林の地面からふぁっと飛び上がった茶色の大きめの鳥が見えた。その後、隠れるように茂みのなかに駆け込んでいく。なんとミゾゴイである。30年鳥を見てやっと出会えた私と、今日初めてのバードウォッチングでミゾゴイを見た新明さん、どちらもうれしい。ビギナーズラックとはこのようなことを言うのだろう。

 日光と東京、自然のようすも野鳥の違う。しかし、これらの夏鳥の出会いには、おもしろい共通点があった。オオルリやキビタキが六義園を通過していく数と日光で繁殖する数も関連があるかもしれない。こうしてみると、夏鳥には当たり年があったり増減の波があることがわかる。それが、こうした出会いにつながるのだろう。これから、より記録が集まれば日光と東京の野鳥の関係がもっと解明されるに違いない。

松田道生
2000年2月5日起稿

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