初夏の野州原林道

野鳥紀行の最初のページ

 前回、ビクともしなかったゲートがやっと開いた。裏見の滝から入る野州原林道の入り口である。今回も福田さんの案内で、野州原林道を行く。
 この間は、ゲートを開けることができず、やむをえず雲竜渓谷へ行ったのだが今回はすんなりとゲートが開いてくれた。せっかく午前4時に起きての探鳥行である。2人とも、ほっとする。

 つづれ折りの林道を登っていくと、両側はスギの林だ。しかし、だんだん広葉樹が多くなり、森の奥深く入っていく感じがしてくる。
 しばらく行くと慈観滝との分岐があり、滝方面へ行く。滝までは広葉樹の林がつづき、ツツジやカエデの仲間が道の両側に多い。何度か沢を越える。こんな山奥で大きな砂防工事が行われているのに驚いた。空き地には、「憩いの広場」の看板がある。いったい誰が憩うのであろうか、などと話しているうちに滝の音がかすかに聞こえてきた。ミズナラなどの新緑の淡い緑のなかに滝の流れが白く一筋見える。慈観滝は、高さも幅も迫力のある滝である。周囲の断崖の岩肌が、自然の厳しさを物語っている風でもあり、野趣のある滝だった。

 この先は行き止まりで、カラマツが多くなる。耳を澄ますと、滝の音の向こうからカッコウの声が聞こえてきた。今年、初めてのカッコウの声だ。渡ってきたばかりのせいか、まだ声量も少なく節回しがおかしい。カラマツのてっぺんで降るようなさえずりが聞こえてきた。ビンズイである。空に向かって大きな口を開けてさえずっている。キツツキの木を叩くドラミングの音も聞こえてくる。福田さんはゼンマイを見つけ、手いっぱい摘んでいる。

 道を分岐までもどり野州原林道に入る。道はこちらの方が悪く、ところどころ舗装してあるもののほとんどがダート。後日談だが、ロケ車が腹をこすりオイル漏れを起こすなど、この道には苦労させられた。
 今度は、つづれ折りの登りがえんえんと続く。ところどころ見晴らしのよい所があり、日光連山を一望し、その裾野に広がる大森林が眺められるのだ。しかし、ほとんどは山道の同じ風景なので、さっきから同じ所を走っているのではないと錯覚するほど。ただし、道の両側からは、ウグイスのさえずりが絶えないし、ビンズイ、シジュウカラ、ヒガラなどが道をよぎる。また、シカが突然道を横切ったり、キツネ、テンにも会ったことのあるケモノの多い所である。

 雨量計のある所を越えると広場のような場所に出る。右の山が丹勢山である。空き地には、山の中には珍しく水たまりがある。岸辺を見ると、おびただしいシカの足跡。他にもテンの足跡もある。抜けるような青い空をノスリが「ピューィ」と鳴きながら飛んでいく。戦場ヶ原の喧噪を思うと、これも日光なのかと感激する。
 この先には男体山から中禅寺湖、いろは坂を一望できるポイントがあった。近くの林からは、ウソ、ルリビタキの声が聞こえてくるから標高も相当高い。
さらにもう一ヶ所、帝釈山、女峰山が一望にできる場所がある。双眼鏡で見ると唐沢の山小屋が崖の上に張り付いたように建っているのが見えた。ここで、午前7時となりコンビニで買ってきたサンドイッチなどの朝食を食べる。この時間だと、まだ雲は湧いてこない。それだけに初夏の青い空が広がり、鳥たちのさえずりが聞こえてくる中での食事は最高である。

 この先は何度か谷に下り、さらに登って志津に行き着く。谷間に入るとかならずいって良いほど、コマドリの声が聞こえてくるのがうれしい。コマドリが大好きな福田さんは、車を止めては聞き入っている。
 志津に近くなると、木がまばらになりササ原が多くなる。林道の横からビンズイが飛び立った。そっと探してみると倒木の陰に巣があり、卵があった。見てはいけないものを見てしまった感じで、足早に立ち去る。しかし、こんな目立つところに巣を作って良いのだろうか。テンもいるしヘビも多いことだろうと心配してしまう。

 しかし、枯れ木のてっぺんでさえずるビンズイ、道の水たまりで食べ物を探すビンズイと、この林道のいたる所で会える鳥である。ハイビジョン番組「日光・知られざる野鳥の天国」のロケでは、休憩中のスタッフの足の間をすり抜けて行ったことがあった。 野州原林道は、ビンズイの天国だった。
そのあとは、志津から光徳に抜け男体山に立ち寄り山を下りた。なんとも充実した1日であった。

松田道生
1999年12月3日起稿、1998年6月26日取材

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