日光・滝尾神社コース

野鳥紀行の最初のページ

 栃木県日光は首都圏からも近く、かっこうのバードウォッチング・ポイントだ。しかし、各地の観光地同様、季節のよい時は交通渋滞をはじめ混雑に見舞われる。とくに、日光は修学旅行のメッカ。集団でふだんとは違う場所で生活することは、教育上必要なことなのだろう。しかし、奥日光のような貴重な自然の中で、集団でただ歩くだけならば、修学旅行公害といわれても仕方ないだろう。
 そこで、人が少なくて日光市内にある手近な自然観察のポイントを紹介しよう。場所は、東照宮の裏手の滝尾神社へのコース。ガイドブックなどでは「史跡探勝路」として紹介されている道だ。

 神橋を横に見ながら日光橋を渡って右に行き、道なりに歩き稲荷川に沿ってなだらかな道を上っていく。しばらく行くと、将棋の「香車」が山のように積み上げられて奉納されている開山堂がある。このあたりから、杉の巨木がうっそうと茂っている。自動車が通れる道と、石畳の道が平行してはしっている。石畳の道は滑りやすくて、でこぼこしているので歩きにくいが、ムードがあるのでこちらがおすすめ。
 4月中旬ならば足下にはヒトリシズカ、道ばたにはニリンソウが咲いている。なお、開山堂の手前にはカタクリの花が数株咲いていたこともある。

 この道で多い鳥は、まずミソサザイ。大きく金属的な声で、そぐそばでさえずってくれる。耳が痛いくらいだ。こちらは歩いているので、1羽の声が遠くなる。すると次の1羽が鳴き始める。滝尾神社につくまでの間に、ミソサザイの声はとぎれることはない。600メートルたらずのコースの間で、だいたい5羽のミソサザイが声で送ってくれる。約100メートルに1羽がこの鳥のなわばりの広さのようだ。
 小さくて藪の中にいることもあるので、姿を見ることは少ないが、これだけいると中には目の前にくることもある。低い枝の先にとまり、スズメよりも小さな体で、名前のように味噌のような焦げ茶色の体、尾をピントたてて、大きな口を開けてさえずってくれる。口の中の色、細い舌まで見えたことがある。
 次に多いのがウグイス。姿を見ることが少ないが、すぐそばで急に鳴き出すので、びっくりしてしまう。「フィ、フィ、フィ・・・」という声がさかんに聞こえてきたら、ゴジュウカラの囀りだ。いつもは木の幹をするする上り下りして、比較的地面に近いところで食べ物を探しているこの鳥だが、さえずるときは、意外と高いところにとまっている。
 このほか、シジュウカラ、ヒガラ、コガラとカラ類のさえずりは、一通り聞くことができる。大きな鳥が、スギの巨木の間を飛んでいったら、カケス。あるいは、キツツキの仲間のアオゲラやアカゲラだ。

 にぎやかな夏鳥たちが渡ってくる前の地付きの鳥たちのさえずりを堪能できる早春の山歩きは、私の好きな野鳥たちとの出会いのシーズンだ。初心者は、こうして基本の野鳥たちを覚えておけば野鳥が多くなる5月になったら、よりバードウォッチングを楽しめるはずだ。
 神橋から1キロメートル足らずの道だが、こうして鳥を見ながら歩いていくと滝尾神社まででも2時間はかかる。神社の手前に小さな白糸の滝がある。ここもかならずミソサザイのいるところ。右に行って林の中を少し歩くと、今まで歩いてきた道と平行して流れている稲荷川の岸辺に出る。かなりの荒れ沢で土石流対策の砂防堰堤が、醜いほど続いている。しかし、岸辺に腰掛けていると目の前をセグロセキレイやキセキレイが飛んでいく。
 5月になって夏鳥たちがやってくるとオオルリが、かならずいる場所でもある。このほか、センダイムシクイ、メボソムシクイ、ヤブサメなど、ウグイスの仲間が多いのもこのあたりだ。
 もし自動車があれば、この先の雲竜渓谷へ行く道を行くのもよいだろう。ただし、途中にゲートがあり実際に雲竜渓谷まで行くことができない。このゲートのあたりでも標高は1500メートル近くになり、落葉樹の林で野鳥も多い。5月に行ったときには、ジュウイチの「ジューイチ」あるいは「慈悲心」と聞こえる声を久しぶりに聞いた。

 帰りは、滝尾神社から少し戻った所にある分かれ道を、右に行く。はじめは急な階段の登り。登り切ったところに行者堂がある。はじめてこの道を歩いたとき、行者堂の前を飛んでいくコガラを双眼鏡で追うと、枯れかかった木に開いた穴に飛び込んでいった。見ていると、さかんに木屑を巣の外に出している。ちょうど、巣作りの最中のようだ。
 登り切ると今度は急な階段の下りになる。両側は、大きなスギの木がうっそうとしげり薄暗い。そして空烟地蔵がある。この手前の道ばたの斜面で、カタクリの花を見たことがある。そして、家光廟大猷院を経て、西参道へ出る。鳥を探し植物を見て歩けば、わずか数キロメートルの道だが、9時頃から歩けば昼近くになる。あとは、東照宮の彫刻の中の鳥を探すのも楽しい。

松田道生
1995年4月 「理科の教育」日本理科教育学会

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