日光植物園

野鳥紀行の最初のページ

 栃木県日光は、東照宮などの歴史的な遺産と戦場ヶ原などの豊かな自然に恵まれている。野鳥も多く見所も多いのだが、いかんせん有名観光地のため人が多い。参道を団体とぞろぞろ歩いては、江戸時代の栄華を偲ぶなどと言う気持ちにはなれない。戦場ヶ原の木道も修学旅行生ががやがや歩いてくるので、鳥の声を聞き逃してしまう。そんな中で、東照宮の少し先にある「日光植物園」は、人が少なく野鳥が多い穴場である。
 この植物園は、正式には「東京大学理学部付属植物園日光分園」。東京都文京区にある「小石川植物園」の分園である。広さ104,850u(31,717坪)。華厳の滝から流れ、神橋の下を通る大谷川の渓流に沿って、約100〜200メートルの幅で700メートル続く森である。園内は、起伏をうまく利用して順路が設けられ、森林のほか、芝生、池、渓流、湿地などの環境が配置されている。そろそろ紅葉見物の客で込み合ういろは坂を避けて、10月上旬にこの植物園を訪れた。
 植物園の入口は、目立たないので自動車だと行きすぎてしまう。バスは「花石町」で下車。日光駅からだと門をすぎてバス停があるから、入口を確認して戻ればよい。入場料は大人330円。時代がかった半券をくれる。

私が訪れたときは、そろそろ広葉樹の葉が色つき始めていた。モミやスギなどの針葉樹は、黒さを増したように見える。まだ、ほとんど葉が落ちていないので、鳥の声はするのだが姿を見るのに苦労する季節だ。
 そんな中で、渡っていく鳥の群を見られたのが印象的だった。ヒヨドリは20羽ほどの群で、南南西ないし西に向かって飛んでいく。20羽の群が鳴き合うので、群がくるとすぐにわかる。木の間から通過する群を数えると、はじめの群は20羽、次の群は21羽だった。数字がとても近いのが面白い。また、ヒヨドリの群に3羽のツバメが入っているものがあった。飛行速度の遅いヒヨドリと一緒に飛んでいくツバメ。たまたま私の見ている上空で追いついたのだろうか。それともこのまま、南の国まで一緒に行くのだろうか知りたいところだ。
 このほかイワツバメが1羽、北へ飛ぶのも見た。ちょっと方向が違うので、渡り途中かどうかわからない。しかし、いつも飛び回っているときの飛ぶときの高さに比べ高い位置を飛んでいた。また、食べ物を捕るときはまっすぐに飛ばず、たえず空中で向きを変えるのだが、このイワツバメは、一途に北へ向かって飛んでいった。どこかで仲間と行き会って南に方向を変えるのであろうか。
鳥ではないが、チョウのアサギマダラもかなり高空を飛んでいくのを見た。これも渡りをするチョウなので、渡り途中のものかもしれない。

 空を飛んでいくものばかり見ていると、首が疲れる。少し森の中に目を向けてみよう。一番目につくのはカケスだ。たえず木から木へ飛び回っている。ふわふわした飛び方と、腰の白と翼の大きな白い斑が見えるのですぐにわかる。よく見ると、カケスの多くがクリをイガのままくわえて飛んでいるのだ。どこかの枝に止まって、ゆっくり中のクリを出して食べるのだろう。しかし、クリのイガは私が触ってもすぐにトゲが手に刺さってかなり痛い。さほど長くない嘴のカケス、きっと顔にトゲが刺さると思うのだが、どうやって食べるのだろう。また、飛んでいるカケスを見るとのどの部分が膨らんでいるものがいるのがわかる。カケスは食べたものを一度、喉にためるからだ。きっと、私が思っている以上にクリをうまく食べているのだろう。
 森の中から鳥たちの鳴き合う声がする。カラ類の群だ。双眼鏡で1羽1羽ていねいに見ていく。まだ、葉の茂り方が夏と変わらないので、姿を双眼鏡にとらえてじっくり見るのはけっこう大変。それでも、やや大きめのシジュウカラ、小さなヒガラはすぐにわかる。違う種類が一つの群を作って、食べ物を探しながら森の中を移動をする彼ら特有の習性だ。
 その群の中にウグイスの仲間のセンダイムシクイが1羽入っていた。この鳥は、夏鳥。さきほほどのツバメたち同様、南に向かって渡って行かなくてはならない。のんびりと、シジュウカラと群れている場合ではないよと言いたいところだ。それとも、カラ類の群といっしょにいることで効率的に食べ物を探し、渡りのエネルギーを蓄えている賢いセンダイムシクイなのであろうか。

 このほか、本日見た鳥は、キツツキの仲間のアカゲラ。7羽の群れで「キーコーキーコー」と鳴いてたイカル。渓流では、カワガラス、セグロセキレイ、キセキレイ。そして、ちらっと見えたハトでキジバトではないハトの仲間、たぶんアオバトだと思うものが1羽いた。このほか、常連のモズ、トビ、キジバト、ホオジロ、ハシブトガラス、ハシボソガラスだ。初秋の森の中で、野鳥たちを遊んだ半日だった。
 なお、日光植物園は11月から4月までの冬の間は、閉園されているので残念ながら冬鳥たちには会えない。春は、ミズバショウの花を見ながら、オオルリ、キビタキ、コサメビタキなど渡ってきたばかりの夏鳥を出迎えることができる。

松田道生
1994年10月 「理科の教育」日本理科教育学会

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