クロスカントリースキー

野鳥紀行の最初のページ

 運動音痴の私は、今までスキーをしたことがない。それなのに、いきなりクロスカントリースキーをやるはめになった。
 場所は、栃木県奥日光の光徳牧場。2月のことだ。奥日光といえば、何回も紹介しているように、野鳥の多い所として知られている。スキーで森の中を滑りながら、バードウォッチングできるなんて、とにかくかっこよさそうだということでの40の手習いである。

 日光市内は、あまり雪は積もらない。しかし、いろは坂を登って行くにつれ道路が凍っている。途中で立ち往生している車もいる。中禅寺湖のほとりから光徳牧場に続く道は全面、雪におおわれている。スタッドレス・タイヤにするか、チェーンが必要だ。
 光徳のアストリアホテルで、レンタルのスキーがある。大きな倉庫のようなところに、何100本もスキーが並んでいる。スキー、ストック、靴のセットを1日借りて、2,6000円(泊まり客は、2,100円)だ。自分で用意するのは、スパッツくらい。服装は、ストレッチのきくパンツとマンウンテンパーカーで十分。しいていえば、ツルツルした素材や防水加工してあるものならば、転んで体についた雪が溶けて染み込んでこない。
 私は、寒いと思って厚めの下着を着て、上はセーターに羽毛服。下はオーバーズボンをはいてきた。しかし、スキーをはじめると、すぐに体が熱くなってきて羽毛服を脱いだ。しばらくするとセーターも邪魔な熱さになって、シャツで十分になってしまった。ただし、足の方は、さすがに寒くちょうど良かった。
 クロスカントリースキーの板は、ゲレンデスキーより幅が狭く長さも短い。靴は、いっけんジョギングシューズのような簡単なもので、靴の前に付いている金具でカチッとスキーに固定する。踵のほうは上下に自由に動くようになっている。スキー板の裏には、中程にスリップ止めの刻みがある。そして、スキーが中央で少し弓形に上に反っていて、体重をかけるとこの刻みの部分が、利いてブレーキがかかる。といっても、ゲレンデスキーほどのブレーキ効果はないそうだ。
 クロスカントリースキーは、別名歩くスキー。それだけに、雪の上を歩くようにしてすべる。平らな所で練習すれば、すぐに滑るように歩けるようになる。おっとその前に、寒さに固まった体を準備体操でほぐしておこう。
 しかし、問題は坂。ちょっとした下り坂でも、はじめは止めるのが難しい。はじめは、どうしても尻餅をつくか木にぶつかって止まるしかなかった。また、登り坂は、すべって登れない。ゆるやかな坂ならば、逆八字にスキーを開いて登る。きついところは、カニ歩きで登る。私が苦労をしてカニ歩きで登っていたら、その横をストックも使わずスイスイとスケートのようにスキーを操り登っていく老人がいた。慣れれば、どってことないようだ。
 また、その日の雪の状態でずいぶん滑り具合が違う。寒くて雪がかたまっている場合は、滑りが悪くつまらない。逆に暖かくてとけると滑りすぎてこわい。

 さて、かんじんのバードウォッチング。首に双眼鏡をぶら下げて、滑りはじめたがたちまち転んで、体全体が雪まみれ。当然、双眼鏡も雪だらけになってしまった。双眼鏡は、防水型がよさそうだ。それに、大型の双眼鏡は、ぶらぶらして転んだときに体にぶつかって痛いし、壊す可能性もある。小型の双眼鏡を腰の横のポーチに入れて、必要なときに出して見るというのがスキーの初心者向けのバードウォッチングの方法だ。
 光徳牧場の森の中のコースを行くと、しんと静まりかえっている。ときどき、コガラやヒガラの声がする。広場のような所で、休んでいると、ツグミとアカゲラ、シジュウカラがやってきた。下の雪が光を反射して鳥のお腹が白く輝いて見える。
 正直言って、はじめはスキーを操るのがやっとで、バードウォッチングどころでない。しかし、翌年3月に、湯滝下から小田代が原、赤沼という長いコースをスキーをはいて歩いた。このコースは、夏に何回も歩いているが、夏とは風景が一変している。雪は、50〜60cmは積もっているのだから道は、どこにあるかわからない。
 はじめは、渓流沿いの道を行く。かなり高低差があって、ときにはスキーをはずさなくては乗り越えられないところもあった。この渓流では、カワガラスを見る。池にはマガモとコガモがいた。
 森の中は、好きなように移動することができる(ただし、戦場が原は湿原保護のためにスキーでも立入禁止)。ときどき、雪の上にウサギやシカの足跡がある。遠くでアカゲラのドラミングが聞こえた。キクイタダキが、さえずっている。いずれも鳥たちの繁殖の準備だ。雪がこんなに積もっているのに、もう春の息吹を感じる。
 森を抜けて、小田代が原にでる。とても良い天気で、真っ青な空と白い雪原が、まぶしくてたまらない。とにかく、ほとんど人に会わないのがいい。冬の森がすべては、自分のもののように感じる。クロスカントリースキーで、冬の森を満喫することができた。

松田道生
1994年1月 「理科の教育」日本理科教育学会

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