林間学校

野鳥紀行の最初のページ

 最近、よく栃木県日光に行く。初め日光は、修学旅行で行くところと、たかをくくっていたのだが、何回か行く内に、日光はなかなか奥の深い所であることがわかってきた。東照宮を中心とした歴史的な町として知られていることはもちろんのこと、華厳の滝や湯元などの観光地としても有名だ。
 そして、戦場が原、小田代が原、霧降高原など自然をたっぷり楽しむことができるポイントが多いのが、私にとってもっとも魅力を感じる。私は歴史にも興味があるのだが、まだ陽明門をくぐっていない。自然を楽しむことに追われ、まだ日光の歴史的な魅力まで手がまわらないのだ。

 さて、なんと言っても魅力的なの戦場が原だ。高層湿原の戦場が原は、尾瀬などと並んで特有の自然環境として知られている。ここには、日光駅からバスで約1時間、いろは坂を登って湯滝でバスを降りる。そして、赤沼に向かう観察コースを歩くのがお奨め。おそらく、関東地方の小中学校ならば、修学旅行や林間学校で一度は歩いたことがあるのではないだろうか。

 このコースの魅力は、森林の野鳥から草原の野鳥まで環境に応じた野鳥たちに会えることだ。湯滝の駐車場では、まずオオルリのさえずりが迎えてくれる。空を見上げれば、イワツバメが群舞している。森の中の道を渓流に沿って歩くと、ミソサザイやカワガワスがよく見える。森の中からはメボソムシクイ、ゴジュウカラ、カケスなど森の鳥たちが声が聞こえて来る。この間は、眼の前にキビタキが出てきて、惜しげもなく黒と黄色のコーディネイトが決まった姿を見せてくれた。
 森が終わったところで、泉門池がある。ここでは、かならずマガモがいる。ここで休憩する人が多く人から餌をもらいなれているのか、キジバトが足元までやってきた。また、この間はこの池で水浴びをしたばかりのヒガラが羽を乾かすために一生懸命、翼をぶるぶる振るわせているのをすぐ近くで観察することができた。
 青木橋を過ぎたところから、戦場が原の湿原の中を木道をとおって歩く。見晴らしがきくから、ここでは鳥がよく見える。双眼鏡でひと当り潅木のてっぺんを見渡せば、ホオアカ、ノビタキ、モズといった草原性の鳥がすぐ見つかる。これらの鳥を、近くの薮から聞こえてくるウグイスの声をBGMに観察するのが最高だ。それにカッコウやホトトギスの声が途切れることはない。赤沼付近の森では、キセキレイ、アオジ、ニュウナイスズメが頻繁に姿を見せてくれる。
 また、このコースは鳥ばかりでない。植物では、レンゲツツジ、ワタスゲ、ニッコウキスゲ、コバイケイソウなど、行くたびに違う花が咲いている。また、枯木で大きなアオダイショウが昼寝していたり、流れの中でドジョウが赤い腹を見せて交尾をしているのを観察したことがある。
 このコース、ガイドブックでは2時間30分だが、自然を楽しみながら歩くと昼食をはさんで倍の5時間もかかってしまう。

 ところで、この自然観察コースを歩いていると困ったことがある。それは、林間学校の子供たちが多いことだ。5月の連休頃は、静かだった。かえって渓流にずかずか入っている釣り人が多く気になったが、6月に入ってからは、子供たちの数に釣り人の影は薄くなってしまった。この集団は、少なくとも50人、多いグループでは100人を越えている。そのため、2本しかない木道を片道通行を無視して歩いて来る。だから逆コースでぶつかると、子供をかき分けて歩かなくてはならない。平坦なコースだから年をとったハイカーも多い。見ていると、狭い木道を突き落とされそうになり、ハラハラさせられる。
 彼らは、わいわい騒ぎながら歩くものだから、この集団がくると鳥の声が聞こえなくなる。それに、歩くのが早い。のんびり歩いている生徒がいると「さっさと歩いて!」と先生に叱られている。また、早く歩くのを競争しているグループもあって「あと、5分しかない」と時計を見ながら駆けて行く子供もいる。せっかくの自然の中でこれはどう考えても、もったいないことだ。もっと、じっくり自然を楽しみ、自然を素晴らしさを知ってもらいたいと思ってしまう。
 以前、学校の先生方を対象に、ここで自然観察の指導をしたことがある。そのとき「戦場が原は、何回も歩いているが、こんなに野鳥が多いとは思わなかった。」と何人かの先生に言われた。もちろん、5時間かけて自然をたっぷり見せてからの感想だ。

 ぜひとも先生方には、林間学校や修学旅行で戦場が原をコースに入れる場合は、もう一度企画を考えなおしてもらいたいものだ。
 私は当面、子供たちが来る9時前に歩くことにしている。また、子供いなくなる静かな冬の戦場が原を今から楽しみにしている。

松田道生
1991年10月 「理科の教育」日本理科教育学会

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