日光野鳥研究会

第110回 観察会 報告

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日時:

2010年7月11日 8:30〜14:00

場所:

菅沼〜金精峠

参加者:

9名

【金精峠】

確認できた鳥: キセキレイ・オオルリ・コガラ・ルリビタキ・コマドリ・オオアカゲラ・クロジ・サメビタキ
声を聞いた鳥: カッコウ・ホトトギス・キクイタダキ・ウソ・ホシガラス・ミソサザイ・メボソムシクイ・ウグイス・キジバト
確認できた花(草本): ヤマクワガタ・シロバナノヘビイチゴ・タニギキョウ・カラマツソウ・ゴゼンタチバナ・ニリンソウ・オオヤマフスマ・ウマノアシガタ・ズダヤクシュ・(オク)クルマムグラ・カニコウモリ(蕾の状態だが非常に多い)・ハリブキ(実)
確認できた花(木本): オオカメノキ(実)
確認できた昆虫: ミヤマカラスアゲハ・ヤマキマダラヒカゲ

この色の種名をクリックすると写真がご覧いただけます

参考:7/11の日光市内の気温と湿度のグラフ
(グラフは日光市内のもので観察地の気温・湿度とは大きく違います)

参考:7/11のアメダス(奥日光)のデータ

−写真をクリックすると別ウィンドーに写真が拡大されます−

7月11日(日)

 金精峠のレポートを書くのは二度目になる。前回のファイルが残っているから、ちょっと上書きして直せば出来上がりだなどと横着なことを考えてみたがそう上手くはいかない。たとえ同じ場所同じ季節でも、出会える生き物も咲いている花も少しずつ違うのだ。そう、森は一瞬たりとも同じ表情を見せない。そこが自然観察の面白さだ。

 本日の集合場所は木彫りの里。行先が遠いので集合を早めて8:30とした。この時季の観察会は天候が微妙だ。今や梅雨の真っ盛りで日光では毎日のように雨が降っている。しかも今年の梅雨は手強く、各地で集中豪雨の被害が出ている。本日も午後からは雨になる予報で、案の定、朝から曇り空だ。どうせ今日は金精峠には行かないだろうとタカをくくっていたら予定通り行くとのこと。きっと雨に降られるだろうなーと気持ちは消極的になっていく。

 本日の参加者は何故かたいへん少ない。少数精鋭だ。8人とは最少記録かと思っていたら見慣れぬ車が現れた。さて誰だろう?宇宙からの使者か?と、車を降りたのは鳥の大御所ながら今やコマドリを見るより難しいとされている幻の会員・タケモリさんであった。さて、メンバーが揃ったところでいざ出発。やや窮屈だが2台の車に9名が分乗する。

 本日の観察会コースの起点は群馬県の菅沼駐車場。車を降りるとさっそくコマドリの声が耳に飛び込んでくる。ところで、この駐車場は日本百名山として人気のある日光白根山(2578m)の登山口でもある。そのため一昨年は駐車場が満車で車が停められないほどだった。今年も悪天候の割にはそこそこ車がある。しかし前回の教訓から車の台数を2台に抑えたため、今回は苦労せずに駐車することができた。

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 細かい雨がパラパラときているが10:05にスタート。私たちが歩くのは人の多い登山コースではなく昔の峠道で、今はほとんど歩く人もいないコースだ。このコースは、下界ではさえずりのピークが過ぎたこの季節にほとんど独占的にさえずりのシャワーを楽しむことができるので、知る人ぞ知る穴場的コースである。しかも入口でも標高1735mもあるので下界の暑さとは無縁だ。

 入り口付近のせせらぎでは2羽のキセキレイがお出迎え。ちょんちょん跳ねながら「雨でもきっといいことがありますよ。」と言っている。入口までの道路沿いにたくさん繁茂する葉っぱはハンゴンソウ。これは外来種のオオハンゴンソウとは違って在来種だ。ほかにも花がまるで線香花火のようなカラマツソウ、シロバナノヘビイチゴ、ニリンソウなどが見られる。ここの道端はちょこちょこと気になる植物があって、まだコースの入口にも達していないのにいつも足止めを食ってしまう。

 ようやく道標のある峠コース入口に到着。足元のカニコウモリはまだ蕾。花はこれからだ。ここからは笹深い山道となる。よく見ると、クワガタソウ、タニギキョウなどの小さくて地味だが可憐な花々が足元を彩っている。このあたりは平行している国道がまだ近いのでオートバイや車の音がうるさく感じる。しかしそれに負けじとホトトギスが大声を張り上げている。ルリビタキやコマドリの声も増えてくる。

 白い花(実際は装飾花)をつけて木に巻きついているのはツルアジサイ。よく似たイワガラミは葉の鋸歯がツルアジサイより粗いことで区別できる、との専門的な解説が担当のYさんよりある。当会もアカデミックだ。皆、ふーんと頷いている。

 コースは登りに入る手前のとくにササが深い所にさしかかる。スパッツか雨具のズボンをつけていないとびしょびしょになってしまいそうだ。と、一瞬クロジかと思わせる「ホイチー」の節が入ったさえずりが聞こえた。クロジか?しかしどこか変だ。それ以外の節回しも聞こえるし、音色も違う。結局これはオオルリということになる。少し歩くと、針葉樹のてっぺんに腹の白い鳥が見える。ちょっと場所を変えて見るとたしかにオオルリだ。ふくよかで良い声だ。そういえば、わが家の周りでもまだオオルリがさえずっている。でもこの時季まで鳴いているオオルリの歌は音が痩せて節も短く下手くそだ。音楽の世界でも、たとえ同じ楽器であっても美しい音色を鳴らす演奏家に人気は集まる。いずこも同じだ。

 カニコウモリが足元を埋め尽くすあたりまで来ると国道から発せられる騒音は次第に遠ざかり、森はいろいろな声に満ち始める。もう耳を澄まさなくともコマドリの声がよく聞こえる。声がけっこう近づいてきたので皆で姿を探すことにする。と、加藤さんが少し離れた木の枝の中に何か捕らえたようだ。双眼鏡で探すも枝の間なので全体像は見えない。バラバラに得られた視野の情報を総合するとコマドリになった。「コマドリのようです。」と言ったものの、コマドリを見たという実感は湧かない。続いて、針葉樹の上の方にサメビタキが現れる。ここは鳥がとくに多く、何羽もの鳥が樹間に見え隠れしている。後ろでガーガーと特徴的な声がした。ホシガラスだ。でも皆、ホシガラスの声そっちのけで木々の間の鳥を追うのに夢中になっている。

 そうこうするうちにコマドリの声は四方八方で聞こえるようになり、姿をバッチリ見たと喜ぶ人も増えてくる。11時を過ぎると雨粒がやや大きくなったように感じる。これから雨がひどくなるかもしれないので、この場所で昼食をとることにする。道が登りになった最初のあたりだ。スタート地点からはまだ880mしか来ていないそうだ。ここは高い木に囲まれているので、雨も小雨程度ならそう気にならない。コマドリの声を聴きながらの贅沢な昼食だ。おまけにカステラとサクランボのデザートまで付いて言うことなし。食事の間中、コマドリの声は近くなったり遠くなったりしながらずっと私たちを楽しませてくれる。

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 松田さんのお話では、木のてっぺんで鳴くオオルリやアカハラなどは下の広い範囲に声が届くので一ヶ所にずっと止まって囀るが、コマドリやコルリのように地面近くで鳴くものは声が届かないのでたえず場所を移動しながら囀るのだそうだ。それで、声が遠ざかってしまってもしばらく待っていればまた近づいてくるとのこと。なるほどと頷く。松田さんとはこれまでの観察会で幾度となくご一緒しているのだが、そのお話は毎回新鮮に感ずる。これは私が過去の説明の内容を忘れてしまうからそう感じるのだろうか。いや、いや、お話の引出しがたくさんあるのだ。ドラエモンのようなお方。

 しばらくすると本当に目の前にコマドリがやって来た。皆、感激。よく聴いていると、同じ個体でも声の調子を変えてさえずっている。これは、「声をいろいろ変化させることにより、ここにいろんな雄がいると思わせるため。」と松田さんの説明。またも頷く。コマドリに負けじとミソサザイも声を張り上げて頑張っている。亜高山の定番・メボソムシクイも近い。しばしさえずりのシャワーの中に身を置くことにする。

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 気がつくともう13時だ。当初の予定12時を1時間もオーバーしている。そろそろ戻ったほうが良さそうだ。もう十分鳥たちの歌を堪能した。

 昼食をとった場所を出発し後ろを振り返ると、先ほどまで私たちが座っていた倒木の上にコマドリが止まっている。彼らにとってはお気に入りのソングスポットを得体の知れない人間どもに長時間占拠され、さぞかし不愉快な思いであったろう。「ごめんなさいね、コマドリさん。もう帰りますからね。」

 このコースにはアーチ状の木にツルアジサイの絡まった芸術的な景観の場所があり、行きか帰り、誰もが一度は感心する。今日は帰り道に皆がここで立止まった。何人もがカメラを構えている。

 駐車場には13:40に到着。雨はまだ小降りだ。この天気にしてはとても楽しめた。キセキレイの言ったとおりになった。

 茶屋で鳥合わせをする。定番のソフトクリームを手にしている人もいる。14:00に終了した。

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【報告: AY】
【写真: AY、YR】


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