日光野鳥研究会

第108回 観察会 報告

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日時:

2010年5月16日 9:00〜15:30

場所:

稚児ヶ墓(女峰山・黒岩尾根)

参加者:

17名

【稚児ヶ墓】

確認できた鳥: トビ・ヒヨドリ・キビタキオオルリ・メジロ・カケス・コガラ・ヒガラ・ツツドリ
声を聞いた鳥: ツツドリ・センダイムシクイ・ヤブサメ・キクイタダキ・ウグイス・メジロ・ヤマガラ・メボソムシクイ・カッコウ・シジュウカラ・ビンズイ・ハシブトガラス
確認できた花(草本): ギンリョウソウ・ウスバサイシン・ヒトリシズカ・サクラスミレフモトスミレ・タチツボスミレ・エイザンスミレ・マルバスミレ・ミツバツチグリ・チゴユリ・セントウソウ・マムシグサ・コンロンソウ
確認できた花(木本): ヤマツツジシロヤシオトウゴクミツバツツジ・ヤマザクラ・イタヤカエデ・オオモミジ・ハウチワカエデ・オオイタヤメイゲツメギ・ヤマブキ・モミジイチゴ・ズミ
確認できた昆虫: ビロードツリアブ・ミヤマセセリ・マルハナバチ・クロサナエ
その他: シカ糞

【木彫の里駐車場】

確認できた鳥: ハチクマハイタカ
声を聞いた鳥: サンショウクイ

この色の種名をクリックすると写真がご覧いただけます

参考:5/16の日光市内の気温と湿度のグラフ
(グラフは日光市内のもので観察地の気温・湿度とは大きく違います)

−写真をクリックすると別ウィンドーに写真が拡大されます−

5月16日(日)

 観察会出席者が順番に書いてきたこの観察会レポートが、とうとう五巡目になった。改めて当会の観察会が回を重ねてきたことを感じながら稚児ヶ墓観察会のレポートを担当させていただく。

 天気は晴れ。いつもの集合場所に集まり、今日のコースの説明を観察会担当のAさんが話している途中、誰が見つけたか「あ、あれは!」と空を指さす人がいる。空には二羽の猛禽が飛んでいる。もう、そうなると話は中断、一斉に双眼鏡が空を向く。「ノスリ?」「オオタカ?」「一羽は小さい!」などと口々に観察した結果が飛び出す。結局、写真判定の結果、ハチクマとハイタカと松田さんが判定。

ハチクマ(右下)とハイタカ

 そしてまた話はAさんの説明に戻り、皆さん何事もなかったようにその説明を聞く。今年の春がちょっと遅れていていつも目当てにしていく稚児ヶ墓のヤマツツジの花がちょっと早いようだという説明、そして午後になると天候が変わってくるだろうというTさんの気象予報。いつもの観察会の始まりだ。

 車に分乗し、東照宮の北側に位置する滝尾神社に向かう。いつになく車がたくさん駐車されていた駐車場にどうにか車を置き、そこから杉の巨木の中をいく石畳の道を歩く。いつもならば、このルートに紫色のきれいな花を咲かすラショウモンカズラが咲いているのだが、今年は全く花が見あたらない。全体的に10日〜2週間くらい季節が遅れているような感じだ。

 石畳の道は途中で分岐し、1575年に再建されたと言われる行者堂から女峰山登山道に入る。この辺りは日光東照宮建立前に山岳修験の場として多くの修験者が行き交っていたところだ。当時植えられた杉は日光の中でも最も古く500年超の樹齢と言われている。古の日光に思いを馳せつつ、行者堂の中をのぞくと薄暗い中にひっそりとすすで黒くなった座像が見えたので、今日の観察会の無事を祈った。

行者堂

 さて、ここから急坂となり、皆さん息を整えながらゆっくりと山道を登るものの、目は辺りの植物を、耳は辺りの鳥を探している。誰かが「ギンリョウソウ」を見つけた。薄暗い森の中にひっそりと半透明な白いギンリョウソウがきれいだ。地味ながら趣のある「ウスバサイシン」も花を咲かせている。観察をしながらの登りは疲れを感じない。

 突然、ツツドリがすぐ近くで鳴く。鳴いている方向にはTさんがいるはずだ。きっとTさんの頭上で鳴いていたに違いない、いい録音ができただろうな、などとみんなで話す。後で聞いたところ突然の鳴き声に録音する間がなかったそう。残念。

 途中、空が開けた林道に出る。これから見通しのきかない杉林の中の急な登りになるので小休止。その後の急な登りの途中では小さく白いフモトスミレが見られる。坂を登り切ったあたりに大きな石碑がある。このルートは何回か観察会で歩いているが、毎回皆さんの話題になるのが、「岩場もないこんな山の中に、このような大きな石碑をどのように持ってきて建てたのだろう」ということ。きっと重さは2tくらいあるのではないかと思われる大きな石碑でひとしきりその話題で盛り上がりつつ休憩。

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 ここまで来ると、あとは明るい落葉樹の快適な尾根歩きだ。オオルリやキビタキの声がする。そしてお目当てのヤマツツジの群落はもうすぐだ。

 ヤマツツジが徐々に増えてくる。が、Aさんの予告通り、ほとんどが赤い蕾のままだ。これが一斉に咲いたらさぞきれいだろうと話しながら道を進む。例年この時期ならば白い花を咲かせるズミもまだだ。以前、Kさんがシカの角を拾ったところにあるミヤマザクラの花もまだ。例年より季節が遅れていることを実感する。しかし、逆にいつもならば咲き終わっているトウゴクミツバツツジがちょうど満開をむかえていたほか、地味ながら多くのカエデ類の花も見ることができた。意外に鳥の影が薄いなぁと思いながらも、ウグイスやカラ類、メジロの声が美しい。カッコウも鳴いている。登る前に松田さんが「サクラスミレが咲いていたよね」と話していたとおり、サクラスミレが赤紫色の花を咲かせているのを見つける。きれいだ。

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ズミ サクラスミレ

 途中から道を左側にそれて、沢の方面に向かう。毎年シロヤシオの花が見られる沢だ。しばらく笹をかき分けながら進むと先の方に真っ白な花をつけた木が見えてきた。シロヤシオだ。季節が早かったため、シロヤシオにはベストな時期となり、真っ白な美しいシロヤシオを皆さんで堪能することができた。

シロヤシオ

 シロヤシオとトウゴクミツバツツジの花に囲まれたこの場所で昼食をとることになる。春の息吹を全身で感じながら、ゆっくりと昼食をとる。突然、Nさんが座っていたすぐ近くにキビタキがやってくる。こちらから見ると背景のトウゴクミツバツツジの花の手前にオレンジが鮮やかなキビタキが。そのあまりの美しさに感嘆しながらも、皆さんしっかりとカメラを構え撮影。春の日差しの落葉樹の森はとても快適で、昼食後、数人が気持ち良さそうに昼寝をしている。

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 そろそろ移動しようかと思った頃、松田さんが「あ、録音機がない!」と。何台か持ってきた小さなPCMレコーダーをどこかに落としてしまったようだ。まだ新しい高価な機器なので全員で来た道を戻りながら探すことにする。GPSのログを見ながら笹をかき分けてきた道なき道をひきかえす。「さっき、変わった声で鳴いていたウグイスを録音したところで落としたかもしれない」と松田さん。ウグイスポイントがどこかよく分からないがとりあえずそこまで戻ることとする。しばらく戻ると、松田さんはその「変わった声のウグイス」の鳴き声を再び聞き分け、その場所に戻ることができた。そして、そこにはしっかりとICレコーダーが落ちていた。ウグイスの声に場所を教えてもらうなんて、さすが松田さん。

 そして帰路もオオルリやビンズイの姿を見ながらゆっくりと来た道を引き返す。再び林道に戻って小休止したときは、ちょっと疲れたのか林道で横になっている方も。

 足を見るとちいさなダニが歩いている。最近、日光の山を歩くと足によくダニがつくようになった。たぶんシカが急増しているためシカが宿主となってダニが増えているのではないかと聞いたことがある。困った事態だ。

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 そして滝尾神社に戻る。脇を流れているきれいな沢を歩いていたOさんに呼ばれ、行ってみると沢近くの草に羽化したばかりのトンボがたくさんとまっている。後日調べたところ「クロサナエ」だそうだ。同じ日に一斉に羽化したようだ。

クロサナエ

 そして集合場所に戻り、鳥合わせ。花が多い。何度も行っているコースだが、やはり毎回新たな発見がある。今年は時期が遅れていることもあり、いつもは見られない動植物なども観察できた。クロサナエもその一つかもしれない。自然の奥の深さを感じつつ今日の観察会は終わった。

 最後に、当会の顧問として創立から一貫して会の運営のご指導をいただいてきた松田道生さんが還暦を迎えられたことを記念し、これまでの感謝の気持ちをこめて福田会長から記念品を贈呈させていただいた。

 振り返ってみれば、私が録音機を持って稲荷川の山の中を歩いているとき、同じく録音機を持った松田さんと偶然出会ったのが13年くらい前だろうか。そして福田豊さん(現会長)と松田さんが温めていた「日光野鳥研究会」設立構想の話に賛同し、今、この会がある。

 そしてさまざまな方々が参加してくださり、今や鳥のみならず植物・動物・粘菌などそれぞれの分野でご活躍されている皆さんとご一緒に野山を歩くことができ、鳥のことをろくに知らなかった私自身の知識幅も広げることができた。改めて福田会長、松田さんをはじめ皆さんに感謝したい。

 「自然」をインターフェースにした皆さんとの観察会がいつまでも続いていくのを祈りつつ。

【報告: IT】
【写真: IT、AY、YR】


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