日光野鳥研究会

第25回観察会 報告

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日時: 2003年2月16日 9:50〜14:50
場所: 奥日光湯元〜泉門池
参加者: 13名

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確認できた鳥: ヒガラ・カワガラス(囀り)・コガラ・ウソ・ゴジュウカラ・キバシリ・コゲラ・アカゲラ(鳴き声)・ハシボソガラス・ミソサザイ・マガモ
観察できた木の実など: ズミ(乾燥状態)・ハリギリ(ウソが群れていた)・カンボク・イワガラミアズマシャクナゲ
観察できた昆虫: ユスリカ・ミイラ状態のエゾハルゼミ・エゾハルゼミの抜け殻
観察できたほ乳類: ニホンジカ・(クマ棚)


参考:2/16の日光市内の気温と湿度のグラフ

(グラフは市内のもので観察地の気温・湿度とは大きく違います)


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2月16日(日)
 降り出した雨が東武日光へ到着したときには、雪に変わっていた。今降り出したようで道路には積雪はなく、それでも奥日光の天候を心配しながら集合時刻に若干遅れて木彫の里へ到着した。そこには奥日光でスノーシューを利用してスノーウォークを決行する会員が既に終結しており、小雪程度であれば予定を決行すべきであるとの決議はすばやく、直ちに奥日光へ向かった。
 会員を乗せた車が日光市街をぬけ、馬返を通過するころには道路に雪が積もり始め、いろは坂を登り始める頃にはすべてが銀世界となっており、タイヤにチェーンを装着するために立ち往生する車も多かったが、会員の多くはこの雪の世界の達人達であろう。競うように雪の中で車を走らせていった。
 中禅寺湖を通り過ぎるころ以前の観察会で大型の猛禽を見ていることから、湖面や止まり木となるようなポイントを確認しながら、雪の中でも猛禽が飛ぶための風を期待しながら注意深く進んでいった。

 スノーシューは今や雪原や雪山へ入っていくための道具として注目されている。この時期、アウトドアショップの店先でも売っている。それだけ人気があるのだろう。今回、三本松のドライブインでは地の利的に、これとクロスカントリーの道具をレンタルしていた。会員それぞれの体重に合わせて道具をレンタルし、出発地点である湯滝駐車場へと更に進んだ。
 湯滝駐車場に到着し、会員はスノーシューを左右確認しながら装着し、出発の準備を行なった。標高約1400m。小雪舞う中でも簡易気温計は3度を示している。視界は良好。この時期としては気温が高く寒さは感じない。
 午前9時50分、駐車場を出発し、履き慣れないスノーシューを引きずりながらシカの防護柵を越えて森に入って行く。不慣れな会員をよそに会長は、迷彩色のウェアーで、木製のスノーシュー・ベアポウを履き、自作の杖をつきながら、背負子には相当の荷が積まれていた。

 

 


 幸いに雪が固く凍っているせいで、足が雪に沈むこともなく、しばらく歩くとスノーシューにも慣れ、やっと周囲の景色がよく見えてきた。湯川の小滝を過ぎた辺りでは、川のせせらぎが聞こえはじめ川と平行して下ってきていることがわかった。しかし、途中、鳥や動物の気配はない。今降っている雪のせいで夜行性の動物の足跡などはすべて消し去られていた。
 光徳方面の分岐を過ぎ、湯川を渡って泉門池方面に向かう。やっと鳥の鳴き声が聞こえた。それはカワガラス。近くに寄ってきている。鳴きながら渓流を小刻みに移動していたが、すぐ前方の止まり木に留まり囀っている。松田氏は早速DATを準備し録音を始めた。あとで聞いた話だが、カワガラスが囀ることは珍しく、今回はこれが大きな収穫であったとのコメントがあった。

 

 


 しばらく観察を続けることができたカワガラスだが、文献によれば水に潜って昆虫等をとるとのこと。確かに水に潜り、別の地点から空中へ飛び出す行動をとっている。このダイビングポイントをみると、川の流れが倒木や土砂の堆積によってできた障害物により、水が一点に集約された場所の少し下流である。水が集約されれば、その水圧によってその地点はえぐられ水深は深くなるだろうし、それを断面的に見れば水は一度川底に達し、それが下流に流れることになるため、そこは水が巻いている状態が予想される。そのわずか下流のポイントに潜る目的は何だろう。
 湯川は上流の湯ノ湖の富栄養化が進んだこともあり、トビケラ、カワゲラ、カゲロウ、ユスリカなどの水棲昆虫の種類も量も多い。これら水棲昆虫は、幼虫期は川底で生活するが、羽化は水面で行われるため、幼虫は流下しながら水面を目指し浮上して行くのである。流下している状態は、昆虫にとって全く無防備な状態でもあるため、湯川に生息するカワマス(ブルックトラウト)などの格好の餌食となる。
 この観察会ではユスリカが確認された。ユスリカは、カゲロウとは少し異なり幼虫から蛹に変化し、蛹の状態で流下し水面を目指す。この低温期でも成虫になる水棲昆虫であることが知られており、成虫が確認されたことで、今も湯川をゆっくりと流下しているはずである。もし、カワガラスが川底の泥中(湯川には限られた一部を除いて岩や小砂利の川底はない)に住むヒルや水棲昆虫の幼虫を好んで捕食しているとすれば、川のあらゆる場所にダイビングポイントがあり、その後、泥をほじくったことによる水の濁りがあるはずである。しかし、それは一切見当たらない。これらのことから、カワガラスは流下する昆虫を捕食しているのではないか。これを捕食するためには、水が一点に集中する場所であれば効率的に捕食できる。このため捕食しやすい位置にダイブしており、その場所がダイビングポイントとして一定なのではと考えた。

 そうこうしているうちに午前11時を過ぎ、更に進み折り返し地点に到達したため、一行は身軽な状態となって、昼食の準備に取り掛かる。夏に見られる木製のテーブルとベンチは雪に埋もれており、それらが機能するまで雪をかき分けた。ふと後ろを振り返ると会長の背負子から登場したのは、なんと直径30cm程の深い寸胴鍋と、これを温めるためのコンロ、もちろん下拵えされたトン汁の材料、お椀、その他ワインなど。この雪原で体を温めるにはもってこいだが、これを背負ってきた会長の荷は増えて当然だ。振舞われた会員が舌鼓を打ったのは言うまでもない。また、S氏の差し入れの品々にも感謝しながらワインで乾杯し、めいめいの昼食を取った。この場所はテーブルがあるため別のパーティーにも休憩場所として利用されており、この季節に複数の人がそこに集まっている光景に驚き、またスノーウォークの関心の高さを知った。


 午後12時20分、湯滝を目指して湯川の西岸を出発し進路を北北西にとった。少々雪が多くなったが視界は良好である。この辺は夏であれば下草が生い茂って人間が入りにくい場所なのだろうが、スノーシューでは快適に雪面を進んでいける。ミズナラやシラカバ等の森を進んでいく。

 

 


 クマダナがある!何?クマダナ。クマタカ、、、先行した会員は大急ぎで引き返してきた。クマタカはどこだ!クマダナはあそこ。ダナ?そう「クマダナ」。ツキノワグマが使ったと思われるクマダナを見ながら前方へ。ゴジュウカラの群れが森の中を飛び回っており、しばし動きに見とれ観察を行う。


 更らに丘を越えて行くと現前に大きな岩の塊が現れた。戦場ヶ原、小田代ヶ原では見たことがない岩で、5階建て程の高さはゆうにあろう塊である。皆が驚き眺めているとA氏から解説があり、約1万年前、火山の噴火によって中禅寺湖が形成された時期、ここにも溶岩が流出してできたものであろうとのこと。この辺で鳥の囀りに耳を傾ける。コゲラ、ミソサザイ、ヒガラ、キバシリといった鳥を確認する。
 倒木をI氏が注意深げに探し物を始めた。倒木でありながらミズナラは生きており元気な木の芽をつけている。ミズナラの頂上付近にはアイノミドリシジミが卵を産み付けているはずでそれを探しているようだ。アイノミドリシジミは、ゼフィルス(風の妖精)と呼ばれるミドリシジミの仲間で、オスの羽の表面はエメラルドグリーンで鮮やかな光沢を放っている美しい蝶である。しかし成虫は7月から8月(年1化)にかけて、比較的木の高い場所で活動し、蝶自体が小型であるためになかなか目にすることはない。美しい個体を入手するためには、採卵し飼育する方法があるが、木の頂上付近に限定して卵を生みつけるために(種類によって生みつける場所が異なる)採集には相当の覚悟を要す。それで彼の行動は充分頷ける。直径1mm強の卵は残念ながら発見はできなかったようだ。


 湯川に近づくと急に木の種類が増え、コメツガやカエデ類などが自生し、川沿いにはアズマシャクナゲが群生している。川ではカワガラスがテリトリー争いを行っており、更に湯滝が見え始めるとマガモが確認され、雪の湯滝を仰ぎ見て駐車場に向かうと、会長の鹿笛がこだました。目を凝らすと駐車場脇の斜面にはシカの群れが確認され、数頭がこちらを注視していた。
 最後まで小雪が舞った今日の天気であるが、ここまでくると全員雪上の足取りはなれたもので、雪に覆われた森に感動し、充実感も高まり名残惜しく駐車場を後にした。その後三本松でスノーシューを返却し、ドライブイン内で鳥合わせの後、午後2時50分解散となった。

【報告: OH】
【写真: MM、IT】


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